どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
ところで、鉛筆画やデッサンの技術は無限の可能性を秘めていますが、構図のテクニックがその全てを左右します。
特に、√3と逆3角形のテクニックは、制作の基本となる要素の一つで、初心者から中級者までのアーティストが持つべき知識です。
この記事では、それらのテクニックを簡単に学び、瞬時にあなたの作品に応用できる方法を解説します。「どうすれば均衡の取れた構図になるのか、どんなテクニックで視線を誘導し、観てくださる人を引き込めるのか」。
これらの疑問に答えるコンテンツを通じて、あなたの鉛筆画やデッサンのスキルは飛躍的に向上するでしょう。次のレベルのアーティストを目指すあなたに、必読の情報を提供します。
尚、今回の制作例の実際の大きさはF1ですが、あなたがそれ以上の大きさで取り組む場合でも充分活用できるように、細かく具体的な説明も施してあります。
それでは、早速見ていきましょう!
主役となるモチーフの選び方
今回の制作例では、夕日の差し込むキッチンで、ゆったりとくつろぎの時間を表現することを思いつき、モチーフもすぐに用意できる、コーヒーカップ・ミル・コーヒーポットを使うことにしました。
それはつまり、今回のテーマの主体である√3の位置に、これらのモチーフで逆3角形の構図を構成するということです。ついでに、構図を構成するために、キッチンの窓及びシンクやフライパンのフタなども使うことにします。
そして、それらのモチーフを各種基本線の配置に対して、何をどのように描いてゆくかということを考えることになります。
あなたが、今回の記事を参考にして描く場合でも、まず今回の制作例と同じように静物画を描く際には、主役・準主役及びレイアウトはどうするかを決めていきましょう。
尚、あなたが制作を検討する際に、私の制作例をそのまま使うことは、著作権がありますのでできません。悪しからずご承知おきください。
鉛筆画・デッサン制作での効果的な構想の練り方
まず最初に、あなたの身の回りにあるA4サイズの紙を用意して、それを半分に切り、今回のあなたの作品の、まずはメモ描き程度で自由に構想を練りましょう。
フリーハンドや実際に測ってでも良いのですが、分割線を入れていきます。もしも、きちんと測って基本線を入れるならば、その線はボールペンで入れておくと、そこへ鉛筆で描き込んでいけば、何度でも描いては消して試行錯誤できます。
最終的には、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えて、あるいは構図上の不足する部分に他のモチーフも加えて補うことにより、いわゆる「下絵(エスキース)」を作ることができます。
具体的には、次の画像のような基本線を引くことから始めます。正確な縮尺を伴ったエスキース作成の場合には、このようなことから始めます。
エスキース作成: 制作の手順
まずは基本線を描き込みましょう。
F10サイズで制作する場合の正確な縮尺のエスキースを作る方法
正確な縮尺のエスキースの利便性
あなたが、本制作画面をF10のスケッチブックで取り組むとした場合に、正確な縮尺のエスキースを作っておくと、本制作で便利です。なぜならば、主要なモチーフの位置を特定できるからです。
F10サイズのスケッチブックの寸法は、長辺は528mm・短辺が454mmなので、あなたが手元に用意したエスキースが、A4の紙を2つに切ったものならば、長辺が210mmで短辺は148mmであり、縮尺は次の通りです。
短辺の縮尺では、エスキースの短辺をF10のスケッチブックの短辺の数値で割ると、148mm÷454mmなので、0.3259という数値が出ます。
そして、エスキースにおける長辺の長さを求める場合には、F10の長辺の長さ528mmに、上記の縮尺(0.3259)をかければ、172.07となります。
つまり、あなたの手元に用意した紙が、A4の紙を1/2に切ったエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができます。
これは、正確に短辺同士の縮尺をおこなうことで、エスキースの長辺の長さが正確に調整できるということです。
本制作画面の正確な縮尺エスキースによる制作の効率化
これによって、F10を正確に縮尺したエスキースが完成しますので、エスキースの中の各モチーフの配置点や輪郭などは、エスキース上の各サイズを0.3259で割れば、正確な位置をF10のスケッチブック上で再現できます。
尚、F10以外のスケッチブックで、本制作画面に臨む場合でも、前述と同じことが言えますので、各サイズの本制作画面によって、正確な縮尺のエスキースを毎回作ることをおすすめします。
実際に制作するスケッチブックのサイズを基にして、正確な縮尺のエスキースを作っておけば、本制作する画面で各モチーフの位置を再現することが簡単にできるということです。
エスキース上の分割点の割り出し方
エスキースの長辺の√3分割点
今回制作するエスキースは、上記のように、あなたが実際に制作するスケッチブックのサイズをF10とするならば、エスキースのサイズは、長辺が172mmですので、172mm÷1.732=99.30mmとなります。
つまり、正確に縮尺をかけたエスキースの長辺の√3の分割点は、99mmの位置ということになります。尚、この分割点は、左右どちらからでも設定することができます(⑤⑥)。
エスキースの短辺の√3分割点
そして、エスキースの短辺では、148mm÷1.732=85.45mmとなりますので、85.5mmの位置が√3の分割点です。この分割点は、上下どちらからでも設定することができます(⑦⑧)。
ここで重要なのは、長辺と短辺には√3比率による分割点は、それぞれ2つあるということです。
この√3比率による分割線と、左右頂点からの斜線(①②)と縦横の2分割線(③④)全部を入れた基本線は下の画像「√3構図基本線(横向き)」の通りです。
鉛筆画・デッサンの本制作画面へエスキースの内容を落とし込む方法
基本線の描画テクニック
この各種基本線は、2Bなどの柔らかい鉛筆で軽いタッチで描き込みます。この時強く描き込んでしまうと、のちの工程で練り消しゴムで消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのために優しく描くことが必要です。
そして、描き込んだ基本線へ、主役である√3の位置にコーヒーカップの中心を置き、その後ろにミル・コーヒーポットを描き込んでいきますが、それ以外のモチーフも検討します。
この主役以外のモチーフと各導線との交わり方や、導線の導き方も同時に考えていくことになります。
今回の制作例では、3点のモチーフをレイアウトしたうえで、一方では、画面上に外界へ抜けていく部分(窓)も構成することにします(以後「抜け」と呼びます)。
「抜け」効果の活用法
この「抜け」があることによる効果は、観てくださる人の息苦しさを解消できます。
観てくださる人の意識がその「抜け」の先にある、外界のひらけた空間をイメージできることによって、解放感を与えられるのです。そして、その効果は静物以外のどのジャンル(人物・動物・風景・心象風景)にでも応用できます。
今回の「抜け」では、窓からキッチンに入ってくる「午後のおだやかな陽光」で、それぞれのモチーフが光っていて、午後の休息のひとときを表現しようとしています。
今回の制作例の構図の要素は、合計すると①√3比率を分割点とする②逆三角形で複数のモチーフをレイアウトする、の合計2点がかなめとなります。
エスキースと基本線の合わせ方
今回の制作例では、画面右上の角には、画面上の右側面に広がる見えていない室内風景もイメージできるように図形を配置します(斜めに立てかけた板を模したモチーフがその部分です)。
そして、左上の窓から室内に陽光が入り込み、室内全体を明るく照らしている光景ですが、この描き込んでいる場所はキッチンです。それも流し(シンク)の横という設定です。
また、その他のモチーフとして「フライパンのフタ」を模したモチーフや「水滴」も加えることにします。
視線誘導の制作テクニック
主役となるコーヒーカップ・ミル・コーヒーポット以外のモチーフを画面に入れる場合には、できるだけ細密に描き込まないようにしましょう。
細かい模様などがあるものを細密に描き込んでしまうと、観てくださる人の注意がその部分に向いてしまうからです。これはどの作品にも言えることです。逆に言えば、主役のモチーフには細密な描写が必要ということでもあります。
そして今回の制作例の場合、フライパンのフタの円形はコンパスで描き込みますし、「抜け」やキッチンのシンクの一部を通る斜線は定規を使います。
これらのことをエスキースに、「描いては消し描いては消し」を繰り返して、いかにして基本線を有効に使ったレイアウトや充分な強調ができるかを考えて、下描き(エスキース)を完成させます。
F1制作例のモチーフの効果的な描き方
長辺における√3の分割点テクニック
尚、今回の制作例の√3の比率は、実際の制作例の大きさはF1なので、長辺が220mmで短辺は160mmです。
例えば長辺の√3の比率を求めるならば、220÷1.732=127になるので、127mmの位置が√3比率の分割点になります。この分割点は、左右どちらからでも設定することができます(⑤⑥)。
また、あなたがF6やF10及びその他の大きさで制作する場合には、実際の画面を測って、それぞれの長辺・短辺を1.732で割った数字が、それぞれの上下左右から図った√3比率の分割点になります。
スケッチブックのメーカーによっては、若干寸法が異なることがありますので、制作当初には必ず確認しておきましょう。これは、F100でもそれ以上の大きさの画面でも共通して言えることです。
短辺における√3の分割点テクニック
短辺も同じく、160÷1.732=92.37になるので、92mmの位置が√3比率の分割点になります。この分割点は、上下どちらからでも設定することができます(⑦⑧)。ここでも、短辺の√3比率による分割点が2箇所あるということです。
この√3の比率による分割線と、左右頂点からの斜線(①②)と縦横の2分割線(③④)全部を入れた基本線は上の画像「√3構図基本線(横向き)」の通りです。
この基本線上に、先ほど制作したエスキースを落とし込んでレイアウトします。実際に描き始める際には、まず全体を大づかみでとらえて描き進んでいきます。
細かいことはさておいて、Bや2Bなどの柔らかい鉛筆を親指・人差し指・中指で軽く持ち、全体を優しいタッチで描いていきましょう。ここでも、最初から各部分を強く描くことはおすすめしません。
必要ならば、長めや短めの定規やコンパスをどんどん使いましょう。フリーハンドで直線や曲線を描くことは、制作を続けていく中でゆっくり覚えていばよいのです。
鉛筆画・デッサンでの基本線とモチーフの調整法
エスキースを活用したモチーフの配置法
画面構成の位置を決める方法
まず、コーヒーカップの中心を、√3の分割線(⑤)上に置きます。
そして、モチーフの乗っている位置については、コーヒーカップの底面を画面の4分割線の高さに近づけます(38mm)。
また、主役の3つのモチーフの後ろの、キッチンの壁面立ち上がり最上部の高さは、構図基本線の⑦(縦の√3分割線)を活用します。
モチーフ配置での柔軟な構成方法
このコーヒーカップの底面の位置では、筆者が色々レイアウトしてみて、一番落ち着きの良いところを選んだ結果です。
あなたが同じようなレイアウトをする場合には、4分割線を使用して、画面下から40mmの位置にコーヒーカップの底面を配置しても良いのです。
また、この3つのモチーフは、底面の接している部分を見ると確認できますが、一番後ろにあるのはコーヒーポットで、その手前がミル、一番手前がコーヒーカップということになります。
コーヒーポットと、コーヒーカップの底面の前後関係を見れば、お分かりになりますね。^^
斜線の効果的な活用法
次に、画面左上のAからDまでの斜線②を暗示するために、流しのシンクの一辺はこの車線の一部を活用しています。
また、画面右上のBからCまでの斜線①は、フライパンのフタを模したモチーフの右側から、画面左下の水滴の左側を通っていることを暗示します。
これらの構図基本線との重ね合わせは、構図の成り立ちを示すためです。その暗示で画面全体のバランスをとります。
このように画面上の暗示などを含めた細かなモチーフなどは、今回の制作例のように水滴やフライパンなどでのほかにも、活用することができます。具体的には、「吸い殻」「枯葉」「ドングリ」などです。
この細かなモチーフは、あなたのアイデア次第で何でも使うことができますので、制作に小道具の必要性を感じることがあれば、身の回りの小物を探してみましょう。
仕上げ前の線の整理と効果的なレイアウト
- 桃色線:√3構図基本線を含めた基本線
- 黄色線:逆3角形の構図を表す線
モチーフの輪郭線の整理とテクニック
最初に描き込んだ、全体の輪郭を取った際のたくさんの線を練り消しゴムで整理しますが、こののちトーンを入れていくところにある線はそのままにしておきましょう。
なぜならば、そこへはこれからトーンを入れていくので消す必要がないからです。そして、モチーフにかかっている線や抜けの中にある線は消しておきましょう。
仕上げに向かって、明るい部分にするところにある無駄な線は目立ってしまうので、必ず消しておく必要があります。
また、練り消しゴムで消したところは、その後トーンを入れていくと、消していないところと比較すると鉛筆の乗り具合が少しだけ違ってくることがありますので、できるだけ練り消しゴムの使用は少なくしましょう。
鉛筆画・デッサンの仕上げテクニック
メリハリを活かした仕上げのコツ
練り消しゴムで整理後は、いよいよ各モチーフをレイアウト後の制作工程に入りますが、その際には一番暗いところからトーンを入れていきましょう。
制作例の描き始めでは、キッチンの左横の部分のトーンの暗さ(HB)を基準として全体を描いていきます。
そして、全体的に一通り描き込んで制作が進み、仕上げの段階になったところでは、光っている部分を強調するために、コーヒーポットの暗い部分に一番暗いトーンを入れていきましょう。
制作例では、コーヒーポットの暗いトーンは当初HBで描き込んでいましたが、最終的には3Bで仕上げました。仕上げでは、一番明るいところ(ハイライト)の部分についても、今一度練り消しゴムで拭き取ります。
明暗の強調法
全体を観察してみて、本来ハイライトであるべきところが、もう一つ明るくなくて、光っているように見えない場合には、その光っているべきところと隣接している部分の黒さの度合いが足りていないのです。
光をより光らしくする場合には、隣接する黒をより濃い黒にすることで、まぶしく光っている個所を強調することができます。
尚、制作例で一番明るいところは、コーヒーカップの左側面及びミルの側面と上方部やコーヒーポットの反射している部分です。「抜け」の窓の部分には10Hのトーンを入れて、3つのモチーフの光っている部分を引き立てます。
鉛筆画・デッサンにおける中心点の重要性
意識的に中央へモチーフを配置する場合や、画面上で大きく面積を取るモチーフでの制作では問題なく画面の寸法上の中心点を考えずに制作できます。
しかし、複数のモチーフで構成する画面では、できるだけ中心点を避けて制作することが望ましいです。
それは、画面の中心点とモチーフ(特に主役や準主役)の中心点を重ねてしまうと、絵画全体の動きが止まってしまうので注意が必要なのです。
そして、今回の制作例の主役は、逆3角形を構成するモチーフ3点ですが、光を受けて反射する3つのモチーフが安定感を与え、ミルのハンドルは手前に来て静止していることがお分かりでしょうか。これは筆者のつたない遠近表現です。
また、この制作例は、窓から入ってくる「午後の穏やかな陽光の入る」キッチンで、静かな室内にいる雰囲気を感じてもらえるように描き進んでいきます。
まとめ
鉛筆画・デッサンの美しさと奥行きは、技術とセンスのバランスにかかっています。初めに、主役となるモチーフの選び方は最も重要です。適切なモチーフが、絵画全体の雰囲気やテーマを引き立て、視覚的な説得力を発揮するからです。
次に、鉛筆画・デッサンの構想を練り、あなたのアイデアを具体的な形にするための作戦を立てる必要があるのです。構想が固まりましたら、エスキースにその内容を描き進みます。
ここで、基本線の描画や「抜け」を効果的に活用する構成を導入します。また、モチーフの形状と配置の効果的な描き方は、中心的な役割を果たします。
そして、エスキースが完成しましたら、その内容で本制作画面を構成していきますが、実際の制作に入るスケッチブックに基づいて制作したエスキースによって、本制作画面での主要なレイアウトは縮尺値で割れば求められます。
さらに、√3の分割テクニックを使えば、画面のバランスを整え、視線を引きつけることができます。この技術は、鉛筆画・デッサンでの基本線とモチーフの調整法でより詳しく解説され、エスキースを活用してモチーフを配置する際に重宝します。
また、制作を進めるうえでは、各種基本線や各種モチーフの効果的なレイアウトと線の整理で、画面構成を調整します。この段階で、斜線の効果的な活用方法も学べます。
尚、鉛筆画の仕上げテクニックでは、絵画に深みとメリハリを持たせる方法を紹介しています。特に、明暗の強調は鉛筆画・デッサンの魅力を最大限に引き出します。
最後に、鉛筆画・デッサンにおける中心点の取り扱いの重要性を忘れてはいけません。
肖像画や、大きく面積を取るモチーフでの制作を除いて、複数のモチーフで制作する場合には、寸法上の画面の中心点に、主役や準主役の中心点が重ならないようように注意が必要です。
さらに、寸法上ではなくて、絵画上の中心点は、黄金分割点・√2分割点・√3分割点のことを指しますので、間違いのないように注意しましょう。この絵画上の中心点は、作品全体のバランスを取る鍵となると同時に、力強さを与えます。
このガイドを通じて、鉛筆画の構築から仕上げまでの全工程での最適な方法を学ぶことができて、あなたの技術と表現力は次のレベルへと引き上げられるでしょう。
そして、この構図記事の他にも、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使って、さまざまな構図や発想を駆使することにより、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事も参照してください。
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