どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
さて、鉛筆画やデッサンの世界には無限の可能性の広がりがあります。そして、その中心には、しっかりとした構図の導入が不可欠です。
この記事では、初心者から中級者までの人が感じる構図の難しさを克服するための秘訣を紹介します。3分割と3角の構図を活用することで、あなたの作品は次のレベルに昇華できます。
そして、これらのシンプルながら効果的なテクニックは、感動的な芸術作品を作成するための鍵となります。今日からあなたも、プロのアーティストとしてのステップを踏み出しませんか?
それでは、早速見ていきましょう!
鉛筆画・デッサンのスタート: モチーフの選び方
今回の制作例は、テーマの主体である「3分割と3角」の位置に、それぞれのモチーフを落とし込んで制作するということであり、各種基本線の配置に対して、何をどのように描いていくかということを考えることでもあります。
あなたも、この記事を参考にして制作する場合でも、主役・準主役及びレイアウトはどうするかを決めていきましょう。できるものであれば、あなた独自のテーマも考えてみましょう。
それは、例えば、寛ぎのひと時、季節を象徴する果物や野菜で季節を表現する、夜の街をシリーズにしてみる、夕暮れ時を専門的に描く、などあなたが描きたいと思えるテーマを見つけることです。静物、人物、動物、風景すべてに言えます。
その専門的なテーマが、あなたのオリジナリティーとなり、他の作家たちとの差別化を図れるからです。ここは、最初から大きな情報になりますが、あなたがこれから制作を進める際に一番に考えるべき重大な点です。
どの上級者であっても、この部分では常に考え続けている点なので、早い段階から、あなたがこの点に気づいて検討を進めることは、重大な意味を持ちます。この点は、画家にとって一生考え続けていく部分でしょう。
ところで、あなたが、今回の制作例で使っていないモチーフで取り組む場合においては、同じような構図で制作しても何ら問題ありませんが、制作例をそのまま使うことは、著作権がありますのでできません。悪しからずご承知おきください。
成功のための鉛筆画・デッサン制作の構想法
まず最初に、あなたの身の回りにあるA4サイズくらいの紙を用意して、それを半分に切り今回のあなたの作品の、まずはメモ書き程度で自由に構想を練りましょう。
フリーハンドや実際に測ってでも良いのですが、分割線を入れていきます。もしも、きちんと測って基本線を入れるならば、その線はボールペンで入れておくと、そこへ鉛筆で描き込んでいけば、何度でも試行錯誤できます。
最終的には、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えて、あるいは構図上の不足する部分を他のモチーフも加えて補うことにより、「下絵(エスキース)」を作ることができます。
具体的には次の画像のような基本線を引くことから始めます。
エスキースとは? 鉛筆画・デッサンの下絵の基本
鉛筆画・デッサンの基本線の描き方
この各種基本線は、2Bなどの柔らかい鉛筆で軽いタッチで描き込みます。この時筆圧を強く描き込んでしまうと、のちの工程で練り消しゴムでは消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのためにも筆圧をかけ過ぎず優しく描くことが必要です。
そして、描き込んだ基本線の3分割と3角の位置にモチーフを置きましょう。またこの時に、作品によってはそれ以外のモチーフも検討して、モチーフと各導線との交わり方や、導線の導き方も同時に考えていきます。
今回の制作例では、3点のモチーフをレイアウトしたうえで、一方では、画面上に外界へ抜けていく部分(窓)も構成することにします(以後「抜け」と呼びます)。
効果的な「抜け」技術とその応用
この「抜け」があることによる効果は、鑑賞してくださる人の息苦しさを解消できます。それは、意識がその「抜け」の先にある外界のひらけた空間に向けられて、解放感を与えられるからです。
そして、その効果は静物以外のどのジャンル(花・人物・動物・風景・心象風景)にでも応用できます。
今回の「抜け」では、窓から入ってくる「穏やかな陽光」でそれぞれのモチーフがところどころ光り、穏やかなひとときを表現しようとしています。
今回の制作例の構図の要素は、合計すると①3分割②3角形で複数のモチーフをレイアウト③抜けの効果を活用、の合計3点がかなめとなります。
エスキースの基本線を画面構成で一致させることの重要性
今回の完成時のイメージは、右上の「抜け(窓)」から室内に陽光が入り込み、室内を照らしている光景です。
この制作例では、3個の貝全部で3角形を構成しますが、キャプションには特徴のある貝の名を用いることにします。
また、画面構成をするための基本線に沿ったレイアウトを行うことで、印象に残る・強い構成をするためにも、当初から予定しているそれぞれの位置に、正確に配置することが必要です。
視線を引きつける鉛筆画・デッサンのコツ
全体のレイアウトをおこないながら、光が微妙に入り込んでいる状況も描き込み、リアリティーを強調します。つまり、光が入り込んできてモチーフの光っている部分と、影になっている部分を正確に描き込んでいくということです。
ここで肝心なのは、3点あるモチーフの中でかたよって1つのモチーフを克明に描き込み過ぎてしまうと、見てくださる人の注意をその部分に集中させてしまいます。
そこで、3点のモチーフそれぞれの凹凸や模様を、1つのモチーフに注意が集中しすぎないようにします。なぜならば、今回の制作例の3点の貝全部で3角形を構成するからです。
また、今回の制作例の場合、「抜け」は長辺の3分割線と短辺の2分割線で仕切った部分を使うことにします。この場合の線は、定規で区切った線をそのまま使います。
これらのことを、A4の半分のメモ程度の紙に、「描いては消し描いては消し」を繰り返して、いかにして基本線を有効に使ったレイアウトや充分な強調ができるかを考えて、下描き(エスキース)を完成させます。
エスキース作成: 制作の手順
まずは基本線を描き込みましょう。
F10サイズで制作する場合の正確な縮尺のエスキースを作る方法
正確な縮尺のエスキースの利便性
あなたが、本制作画面をF10のスケッチブックで取り組むとした場合に、正確な縮尺のエスキースを作っておくと、本制作で便利です。なぜならば、主要なモチーフの位置を本制作する画面に特定できるからです。
F10サイズのスケッチブックの寸法は、長辺は528mm・短辺が454mmなので、あなたが手元に用意したエスキースが、A4の紙を2つに切ったものならば、長辺が210mmで短辺は148mmであり、縮尺は次の通りです。
短辺の縮尺では、エスキースの短辺をF10のスケッチブックの短辺の数値で割ると、148mm÷454mmなので、0.3259という数値が出ます。
そして、エスキースにおける長辺の長さを求める場合には、F10の長辺の長さ528mmに、上記の縮尺(0.3259)をかければ、172.07となります。
つまり、あなたの手元に用意した紙が、A4の紙を1/2に切ったエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができます。
これは、正確に短辺同士の縮尺をおこなうことで、エスキースの長辺の長さが正確に調整できるということです。
正確な縮尺エスキースによる制作の効率化
これによって、F10を正確に縮尺したエスキースが完成しますので、エスキースの中の各モチーフの配置点や輪郭などは、エスキース上の各距離を0.3259で割れば、正確な位置をF10のスケッチブック上で再現できます。
尚、F10以外のスケッチブックで、本制作画面に臨む場合でも、前述と同じことが言えますので、各サイズの本制作画面によって、正確な縮尺のエスキースを毎回作ることをオススメします。
実際に制作するスケッチブックのサイズに基づいて、正確な縮尺のエスキースを作っておけば、本制作する画面で各モチーフの位置を再現することが簡単にできるということです。
エスキース上の分割点の割り出し方
エスキースの長辺の3分割点
今回制作するエスキースは、上記のように、あなたが実際に制作するスケッチブックのサイズをF10とするならば、エスキースのサイズは、長辺が172mmですので、172mm÷3=57.33mmとなります。
つまり、正確に縮尺をかけたエスキースの長辺の3の分割点は、57mmの位置ということになります。尚、この分割点は、左右どちらからでも設定することができます(⑤⑥)。
エスキースの短辺の√3分割点
そして、エスキースの短辺では、148mm÷3=49.33mmとなりますので、49mmの位置が3分割点です。この分割点は、上下どちらからでも設定することができます(⑦⑧)。
この3分割線と、左右頂点からの斜線(①②)と縦横の2分割線(③④)全部を入れた基本線は下の画像「3分割構図基本線(横向き)」の通りです。
F4サイズの本制作画面で制作する場合の手順
正確な縮尺のエスキースの利便性
あなたが、本制作画面をF4のスケッチブックで取り組むとした場合に、正確な縮尺のエスキースを作る場合も次の通りです。
F4サイズのスケッチブックの寸法は、長辺は333mm・短辺が242mmなので、あなたが手元に用意したエスキースが、A4の紙を2つに切ったものならば、長辺が210mmで短辺は148mmであり、縮尺は次の通りです。
短辺の縮尺では、エスキースの短辺をF4のスケッチブックの短辺の数値で割ると、148mm÷242mmなので、0.6115という数値が出ます。
そして、エスキースにおける長辺の長さを求める場合には、F4の長辺の長さ333mmに、上記の縮尺(0.6115)をかければ、203.6という数値が出ます。
つまり、あなたの手元に用意した紙が、A4の紙を1/2に切ったエスキースの長辺を204mmにすれば、あなたが本制作に入るF4を正確に縮尺したエスキースの土台ができます。
これは、正確に短辺同士の縮尺をおこなうことで、エスキースの長辺の長さが正確に調整できます。
正確な縮尺エスキースによる制作の効率化
これによって、F4を正確に縮尺したエスキースが完成しますので、エスキースの中の各モチーフの配置点や輪郭などは、エスキース上の各距離を0.6115で割れば、正確な位置をF4のスケッチブック上で再現できます。
実際に制作するスケッチブックのサイズに基づいて、正確な縮尺のエスキースを作っておけば、本制作する画面で各モチーフの位置を再現することが簡単にできるのです。
本制作画面の3分割法: 長辺の技法
今回の制作例の3分割線は実際の制作例の大きさがF4なので、長辺が333mmで短辺は242mmです。例えば長辺の3分割点を求めるならば、333÷3=111になるので、画面を111mmで3分割します(⑤⑥)。
また、あなたがF6やF10及びその他の大きさで制作する場合には、実際の画面を測って、それぞれの長辺・短辺を3で割った数字が分割点です。
スケッチブックのメーカーによっては、若干寸法が異なることがありますので、制作当初に実際に確認しておきましょう。これは、F100でもそれ以上の大きさの画面にも全て共通して言えます。
短辺も活用! 3分割の秘密
短辺も同じく、242÷3=80.66になるので、81mmの位置が3分割点になります(⑦⑧)。
この3分割線と、左右頂点(AとB)からの斜線(①②)と縦横の2分割線(③④)全部を入れた基本線は上の画像「3分割構図基本線(横向き)」の通りです。
この基本線上に、先ほど制作したエスキースを落とし込んでレイアウトします。実際に描き始める際には、まず全体を大づかみでとらえて描き進んでいきます。
本制作画面での鉛筆画・デッサンの基本線とモチーフのバランス法
エスキースに基づいて効果的な配置
モチーフ3点を実際にレイアウトします。制作例では、下の右側の貝には「ツノ」のような特徴的な形状があり、その特徴的な部分が光を受けているような情景をイメージできたので、そのように配置します。
そして、画面はF4で大きくはないため、モチーフを小さめに描いて、それ以外の構図要素の黄金分割及び√2や√3を使う手もありましたが、それでは貝の迫力を表現できないと判断しました。
そこで、実際の貝の大きさよりも大きく描き、画面上のモチーフの構成面積を大きくすることで迫力を出すことにします。
この場合、構図基本線の分割線を意識してレイアウトしますが、画面に納まりきれない部分は画面の外にハミ出てよいのです。無理に画面に収めようとすれば、窮屈になってしまうからです。
逆に、画面からハミ出ることによって、画面の外の広がりが表現できることになります。このことは、どの作品を描いていくうえでも言えることで、重要なことなので記憶しておきましょう。
尚、画面下の長辺(CD)上にモチーフを「乗っけた」ようにレイアウトすることは重大な禁じ手なので、これも覚えておく必要があります。
斜線導線: 鉛筆画・デッサンの画面構成の魔法
次に、画面左上のAからDまでの斜線②やBからCまでの斜線①も意識してレイアウトしましょう。この斜線の暗示も重要です。つまり、斜線が通っていることを画面上のレイアウトや、モチーフの凹凸なども含めて表現するということです。
実際のモチーフの形状を構図の構成上少しだけ修整することにします。これは、どの画家もほとんど行っていることで、デフォルメと呼んでいます。
これらの構図基本線との重ね合わせは、構図の成り立ちを示すためでもあり、その暗示を含めて画面全体のバランスをとっています。
尚、デフォルメは、風景画の場合でれば、実際の景色には電柱や電線があっても、あなたの意図する一番見映えのする画面にするために、省略しても良いのです。
それは、現存する状態に修整を加える事であり、「削除」「つけたし」「省略」「変形」など何でもアリです。要は、見映えの良い作品に、いかにして仕上げるかということです。
鉛筆画・デッサンでの構図とレイアウトの整理
- 黄色の線:3分割構図基本線
- 緑色の線:3分割線
- 青色の線:「抜け」に使うための線
- ピンク色の線:モチーフで3角を構成する線
鉛筆画・デッサンの輪郭線以外の整理法
最初に描き込んだ、全体の輪郭を取った際のたくさんの線を練り消しゴムで整理しますが、こののちトーンを入れていくところにある線はそのままにしておきましょう。なぜならば、そこへはこれからトーンを入れていくので消す必要がないからです。
そして、モチーフにかかっている線や抜けの中にある線は消しておきましょう。仕上げに向かって、明るい部分にすべきところにある無駄な線は目立ってしまうので、必ず消しておく必要があります。
また、練り消しゴムで消したところは、その後トーンを入れていくと、消していないところと比較すると鉛筆の乗り具合が少しだけ違ってくることがありますので、練り消しゴムによる消し込みはできるだけ少なくしましょう。
鉛筆画・デッサンの仕上げ: 明暗の魔法
メリハリを強調する仕上げテクニック
「練り消しゴム」でたくさんの線を整理した後は、いよいよ各モチーフのレイアウト後の制作工程に入りますが、その際には一番暗いところからトーンを入れていきましょう。
制作例の描き始めでは、短辺の2分割線で区切られたモチーフ背後の壁面が一番暗い設定であり、当初は2Bでトーンを入れましょう。また、床面についてはBで描き進みます。
制作例では、全体をほぼ描き上げた状態から、改めて背後の壁面は3Bで仕上げました。これは1段背後を暗くすることによって、モチーフや抜けを引き立てられるからです。
そして、仕上げでは一番明るいところ(ハイライト)の部分についても、今一度練り消しゴムで拭き取ります。
尚、モチーフに当たっている光の部分を活かすために、抜けには2Hの優しいトーンを入れますが、ミヒカリコオロギボラの「ツノ」が光っている感じを得られるまでトーンを入れます。
光の強調: 黒の効果的な活用法
全体を観察してみて、本来ハイライトであるべきところが、もう一つ明るくなくて、光っているように見えない場合には、その光っているべきところと隣接している部分の黒さの度合いが足りていないのです。
光をより光らしくする場合には、隣接する黒をより濃い黒にすることで、まぶしく光っているべき部分を強調することができます。
絵画制作上での中心点の取り扱いの重要性
誕生2021-Ⅲ F4 鉛筆画 中山眞治
制作例では、構図構成上の中心点部分がモチーフにかかっていますが、意識的に中央にモチーフを配置する場合は別として、絵画の制作において、複数のモチーフで構成する画面では、できるだけ中心点を避けて制作することが望ましいです。
そして、人物画や画面に大きくモチーフの面積を取って制作する場合などを除いて、画面の中心点に、主役・準主役のモチーフの中心点が重なってしまうと「動きを止めてしまう」ので、中心点の取り扱いには注意が必要です。
尚、制作例では、窓から「穏やかな陽光の入る」静かな室内にいる雰囲気を感じてもらえるように描き進んでいきますが、あなたも作品に応じて、「あなたの描きたいイメージ」が画面に反映できているかどうかを絶えず意識しましょう。
まとめ
第1回個展出品作品 静物Ⅱ 1996 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画は古くからの伝統的な芸術表現の一形態として、多くの人々に愛されてきました。その魅力は、鉛筆だけで表現される繊細で細密な線や明暗にあります。
今回の記事では、鉛筆画の制作過程における数多くのステップやテクニックを詳しく紹介しました。
特にモチーフの選び方からスタートし、制作の構想法、エスキースの基本、画面の3分割法など、作品を次のレベルに引き上げるための秘訣を解説しました。
明暗のコントラストを魔法のように表現する仕上げの方法や、中心点の取り扱いの重要性についても触れました。これらのテクニックを駆使することで、あなたの鉛筆画は一段と深みを増し、観てくださる人を引き込む力を持つことでしょう。
また、「抜け」技術や斜線の導線の魔法など、一見シンプルに見える鉛筆画に隠された奥深いテクニックを学ぶことができたはずです。
この情報をもとに、初心者から中級者までの人々が鉛筆画の制作に取り組む際のガイドとして活用していただければ幸いです。
特に、エスキースを使った効果的な配置や、光の強調の方法などは、あなたの作品に新たな命を吹き込む要素となるでしょう。
最後に、アートは表現の自由であり、上記のテクニックや方法はあくまで一つの参考として捉えてください。
真の美しさは、作者の情熱や感性が詰まった作品から生まれるものです。鉛筆画・デッサンの素晴らしさを再発見し、自分だけのアートを創り上げる旅を楽しんでください。
尚、この構図記事の他にも、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使って、さまざまな構図や発想を駆使することにより、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。
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