どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
さて、鉛筆画やデッサンを始めたばかりの人、もしくは中級者の人へ。構図はアートの心臓部とも言える要素で、その品質が作品全体の出来ばえを大きく左右します。
特に、基本線や黄金分割といったテクニックの活用は、見る人に感動を与える作品を生み出す鍵となります。この記事では、鉛筆画・デッサンの構図の基本から、基本線や黄金分割の具体的な使い方までを分かりやすく解説します。
また、道具の選び方や実際のエスキース作成のコツも併せて紹介致しますので、あなたのアート作品を次のレベルに引き上げるためのヒントが満載です。
それは、早速見ていきましょう!
黄金分割の基本: 鉛筆画・デッサンでの活用方法とポイント
モアイのある静物 2022 F4 鉛筆画 中山眞治
鉛筆画やデッサンにおいて、視覚的なバランスと魅力を高める手法の一つが「黄金分割」です。
この古代から伝わる美の法則は、絵画や彫刻、建築、さらには写真など多岐にわたるアートの世界で活用されています。では、鉛筆画やデッサンにおいて、この黄金分割をどのように活用するのでしょうか。
黄金分割の定義とその魅力
黄金分割とは、対象となる長さを1.618で割った値で求められる数値による分割方法です。それは、自然界や人体の構造にも見られる美の法則として知られています。尚、詳細な計算や数値の求め方などについいては、この先の部分で説明します。
鉛筆画・デッサンでの具体的な活用方法
鉛筆画やデッサンにおいて黄金分割を活用する方法は、まず、画面に基本線を引いたうえで、作品の主要な要素や焦点となる部分をこの比率に基づいて配置することです。
例えば、肖像画の場合では、画面上の人物の立ち位置を基本線を引いたうえで、この黄金分割点に配置することが、一番最初に手掛けるべき手順でしょう。絵画ではこのように、構図を用いた分割が「中心」と呼ばれます。
そして、人物の目や鼻などの主要なポイントをスケッチブックや紙の黄金分割に配置することで、自然なバランスと、見てくださる人を引き込む力を持った作品に仕上げることができます。
黄金分割の注意点と落とし穴
構図は当初はシンプルな取り扱いをして、やがては、あなたの表現に合わせて複数の導入も必要になります
黄金分割は強力なツールである一方、過度に依存すると作品が固定的・公式的になるリスクもあります。最も重要なのは、黄金分割を一つのガイドラインとして捉え、自身の感性やメッセージを最優先にすることです。
つまり、スケッチブックの画面構成をこの黄金分割だけの構成にせず、他の構図や要素もふんだんに盛り込むことを考えていくということです。これらのヒントは、この記事の最下部にある関連記事を参照してください。
そして、もっと嚙み砕いた言い方をすれば、作品上において、構図とモチーフの仕上げをメインに取り組みながらも、「緊張感」及び「安定感(三角形の構図など)」や「爽快感(抜けを取り入れる)」なども加えていくということです。
構図以外の充実点の具体例
上の作品では、緊張感を出すために、作品の奥から手前にかけてボールが転がってくるイメージで緊張感を高めています。作品によっては、画面上のモチーフの視線を感じるような雰囲気で緊張感を表現することもできます。
花の描き方で言えば、複数の花がほとんど「テンデンバラバラ」にあちらこちらを向いている中で、一輪だけは正面を向いている場合などでは、実際には存在しませんが、「花の視線」を感じるような緊張感をだせます。
鉛筆画やデッサンの初心者~中級者の人々にとって、構図を取り扱う初歩として、黄金分割は新しい視点や切り口を提供してくれるでしょう。この法則を意識的に取り入れることで、作品の質を飛躍的に向上させることができます。
エスキースへの基本線の描き方: 効果的な構図を生み出すための下絵の制作
鉛筆画・デッサン制作の構想を練る
まず最初に、あなたの身の回りにあるA4サイズくらいの紙を用意して、それを半分に切り、今回の作例のまずメモ書き程度で自由に構想を練りましょう。フリーハンドや実際に測ってでも良いのですが、分割線を入れていきます。
もしも、きちんと測って基本線を入れるならば、その線はボールペンで入れておくと、そこへ鉛筆で描き込んでいけば、何度でもいろいろ描いては消して、試行錯誤が繰り返せます。
最終的には、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えて、いわゆる「エスキース(下絵)」を作ることができます。具体的には次の画像のような基本線を引くことから始めます。
尚、具体的な計算や数値の求め方などはこの先で説明します。
基本線の配置をイメージできるように描き込むことが大切です
そして、重要なのは基本線とモチーフのレイアウトにおいて、たとえば作例で言えば、左上の時計を模した部分のある画面左角から抜けの左上部を通って、一番手前の球体の右側に斜線が位置していることを暗示します。
また、画面右上からの斜線も、抜けの右の上部頂点を通って、一番奥の球体の中心を通り、球体真ん中の左側に斜線が通っていることを暗示しています。勿論主役のモアイ像は、制作例の中心部分で主役であることを主張しています。
本制作画面に鉛筆画・デッサンのエスキースを落とし込む
- ① 画面右上から左下へのBC間を結ぶ斜線
- ② 画面左上から右下へのAD間を結ぶ斜線
- ③ 画面横の2分割線
- ④ 画面縦の2分割線
- ⑤⑥ 画面横の黄金分割線、その求め方は、画面AB(CD)間の距離÷1.618で求めた値をAとBのそれぞれから計測して線を引きます。
- ⑦⑧ 画面縦の黄金分割線、その求め方は、画面AC(BD)間の距離÷1.618で求めた値をAとCのそれぞれから計測して線を引きます。
まずは本制作画面に基本線を引きましょう
鉛筆画やデッサンにおいて、作品の魅力を引き立てるための基盤となるのが基本線です。正しい基本線の引き方を身につけることで、視覚的なバランスや深度、そしてストーリー性を高めることが可能になります。
本制作画面の基本線とエスキース(下絵)との整合性を考えよう
各種モチーフやレイアウトを具体的に検討しよう
この各種基本線は、2Bなどの柔らかい鉛筆で軽いタッチで描き込みます。この時強く描き込んでしまうと、のちの工程で消しゴムで消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのために優しく描くことが必要です。
そして、描き込んだ基本線と、この作例の場合には、主役であるモアイ像以外のモチーフを検討します。この主役以外のモチーフと、各導線との交わり方や、導線の導き方も同時に考えていくことになります。
今回の作例では、水平・垂直線も併せて複合した制作をすると考えた時に、画面上の中央に奥へ抜けていく部分を構成することにしました。この抜けがあることによる効果は、息苦しさを解消して解放感を与えます。(以後「抜け」と呼びます)。
爽快感や緊張感も画面に盛り込もう
今回の作例には、基本線を描き込む一方で、この「抜け」を併せて考えて、レイアウトに加えることにしました。
そして、画面左上角には、壁掛け時計を模したモチーフを置き、光を受けて一部が輝いている状態を描くことによって、実際に光が外部から部屋に差し込んできている状態をイメージできるようにします。
また、画面上に緊張感を出すために、奥から球体が手前に転がってくる状態の動きも併せてイメージして、同時に遠近感を出す工夫も併せて行うことにしました。ここで言う緊張感とは、見てくださる人に迫ってくるイメージを与えるということです。
楽しく描くために道具は何でも使おう
尚、この作例では、球体はコンパスで描き込んでいますし、「抜け」にも定規を使っています。
偉い画家の先生がこの話を聞いたら、「顔を真っ赤にして怒る」でしょうが、そんなことはどうもよいのです。あなたが楽しく構図を取り入れた作品を描くことが重要です。ただし、自由に道具を使うのは自宅でやりましょう。^^
そして、コンパスを使う場合には、画面にコンパスの針が深く突き刺さってしまうと、その穴が目立ってしまうことがありますので、「できるだけそっと刺して穴を小さくする」心がけが必要です。
黄金分割線は長辺短辺それぞれに2つあります
- ① 画面右上から左下へのBC間を結ぶ斜線
- ② 画面左上から右下へのAD間を結ぶ斜線
- ③ 画面横の2分割線
- ④ 画面縦の2分割線
- ⑤⑥ 画面横の黄金分割線、その求め方は、画面AB(CD)間の距離÷1.618で求めた値をAとBのそれぞれから計測して線を引きます。
- ⑦⑧ 画面縦の黄金分割線、その求め方は、画面AC(BD)間の距離÷1.618で求めた値をAとCのそれぞれから計測して線を引きます
モアイ像は、横の黄金分割線(⑥)上に置き、床面の高さも黄金比率の高さ(⑧)で構成し、また、奥から手前にかけて3個の球体を使って動きを出します。
その球体の一番奥の球体は明るくする、中間の球体は暗くする、一番手前の球体は薄暗くすることによって空間表現することを考えつきました(本来は、モチーフではなくて空間で表現しますが、あえて実行してみました)。
今回の作例の黄金比率は実際の作例の大きさがF4なので、長辺が333mmで短辺は242mmです。
例えば、短辺の黄金比率を求めるならば、242mm÷1.618=149.5mmになるので、149.5mmの位置が黄金分割点になり、モアイの左右の立ち位置になります。この分割点は、左右どちらからでも設定することができます(⑤⑥)。
長辺も同じく、333mm÷1.628=205.8mmになるので、206mmの位置が黄金分割点になります。この分割点は、上下どちらからでも設定することができます(⑦⑧)。
本制作画面の基本線へエスキースの内容を落とし込み、全体的な構成を再度見直しましょう
この黄金比率による分割線と、左右上方角からの斜線(①②)と縦横の2分割線の(③④)全部を入れた基本線は上記の黄金分割構図基本線(縦向き)の通りです。
この基本線上に、先ほど制作したエスキースの内容を落とし込んでレイアウトします。
水平・垂直線については、「黄金分割構図基本線(縦向き)」の中にある「抜け」の窓枠や、床面と奥の壁との境界線に、水平・垂直線を使っているわけですが、水平線と垂直線だけで構成した画面は、理性的で、静かな世界を表現できます。
尚、抜けに使う長方形の描き方ですが、エスキースの段階でモアイを実際にレイアウトして、「しっくりくる」大きさをさがして、その上部の両端は、斜線①と②が頂点になるようにレイアウトしたものをそのまま使います。
この場合の「抜け」は、画面上の分割線③から見て左右対称にすることが必要です。
また、実際に描き始める際には、まず全体を大づかみでとらえて描き進んでいきます。細かいことはさておいて、Bや2Bなどの柔らかい鉛筆を親指・人差し指・中指で軽く持ち、全体を優しいタッチで描いていきましょう。
鉛筆画・デッサン全体が整ってきたらメインとなる線以外を整理する
最初に描き込んだ、全体の輪郭を取った際のたくさんの線を練り消しゴムで整理しますが、モチーフにかかっている線や抜けの中にある線は消してしまいましょう。
しかし、これからトーンを入れていくところにある線はそのままにしておきましょう。なぜならば、そこへはこれからトーンを入れていくので消す必要がないのです。
練り消しゴムで消したところは、その後描き込んでいく際に、消していないところと比較すると鉛筆の乗り具合が少しだけ違ってくるので、必要最小限で消すことを心がけましょう。
一番暗い部分からトーンを入れていきましょう
鉛筆画・デッサンの仕上げでは暗い部分はより暗く、明るい部分はより明るくすることが特に重要です!
完成に近づいた時点では、それまで一番暗く描いていたところをもう一段暗くしましょう
メインとなる線を残して描き進んで行きますが、その際には一番暗いところから描き始めていきましょう。この作例では、奥の壁部分です。
このトーンの暗さを基準として全体を描いていきますが、全体的に一通り描き込んで制作が進み、仕上げの段階になったところでは、それまで一番暗く描いていたところを更に一段暗くしてみましょう。
この作例では、当初奥の壁部分を2Bで描き込んでいましたが、最終的には3Bで仕上げました。手前の床面はHBです。
光っているべきところが光って見えないのは隣接する黒の度合いが弱いのです
仕上げの段階では、一番明るいところ(ハイライト)の部分についても、今一度練り消しゴムで拭き取ります。
全体を観察してみて、本来ハイライトであるべきところが、もう一つ明るくなくて、光っているように見えない場合には、その光になるべきところと隣接している部分の黒さの度合いが足りないのです。
光をより光らしくする場合には、隣接する黒をより黒くすることで、まぶしく光っている部分を強調することができます。
制作例で一番明るいところは、「抜け」から光を受けているモアイの頭部や腕の部分です。尚、「抜け」の部分にも、5Hのソフトなタッチでトーンを入れてありますので、実際の作品のモアイ像の頭部や腕の部分は光って見えます。
制作例では、「抜け」の周囲がほど良い暗さになっているので、モアイ像のハイライトを強調するべく隣接はしていませんが、主役を強調できる状態になりました。
海外の歴史上の著名作家による黄金分割の作品
構図はアートの魅力を引き立てる要素の一つです。特に黄金分割や基本線は、多くの名作で活用されています。
モネの《睡蓮》: 黄金分割の美学
クロード・モネ 睡蓮 1916 西洋美術館蔵
クロード・モネの《睡蓮》は、色彩だけでなく、黄金分割の技法を活用した構図でも知られています。
画面の分割や主要な要素の配置において、黄金比が巧妙に用いられており、見る者の目を自然と画中のポイントへと誘います。
ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》: 基本線の威力
レオナルド・ダ・ビンチ 最後の晩餐 1945~98 サンタ・マリア・デッレ・グラツイエ修道院蔵
この歴史的な名作では、キリストを中心に放射状の基本線が描かれています。
これにより視線は中央のキリストに集中し、物語性とドラマを高めています。基本線の駆使方法に注目してみると、ダ・ヴィンチの巧妙な技法が見えてきます
ホッパーの《ナイト・フォークス》: 基本線と黄金分割の組み合わせ
エドワード・ホッパー ナイトフォークス 1942 シカゴ美術館蔵
エドワード・ホッパーの《ナイト・フォークス》では、基本線と黄金分割が組み合わせられ、孤独感や都市の冷たさを強調しています。
窓の配置や人物の位置取りが緻密に計算されており、この作品の背後には深い計画があることが伺えます。
効果的な練習法: 構図力を日々向上させるための練習ルーティンとテクニック
アートの世界では、構図力は画家の技量を示す重要な要素として位置づけられています。
それでは、この構図力を日々研ぎ澄ませるために、どのような練習方法が効果的なのでしょうか。本記事では、継続的に構図力を高めるための具体的なルーティンとテクニックを紹介します。
毎日のスケッチ習慣を持つ
毎日少しづつでもスケッチをすることで、視覚的な感覚を手の動きに連動させて鍛えることができます。特に、異なる状況や被写体を選ぶことで、多様な構図の経験値を増やすことが可能です。
構図分析: 名作を通じて学ぶ
世界の名作や気に入った作品をピックアップして、その構図や要素の配置を分析することで、他者の技法や考え方を学ぶことができます。
自らの作品制作にも取り入れてみると、新しい発見やアイディアが生まれることにもつながります。
テーマ性を持って制作: コンセプトを元にした構図
特定のテーマやコンセプトを設定し、それを基にした構図の練習をすることで、意図的な構図の作成能力を養います。
例えば、”孤独”や”喜び”といった感情や、特定の場面や風景を元にした練習が考えられます。この発想は、心象風景の表現にピッタリです。
他者の評価を活用する
他者からの意見や評価は、自己の成長のための貴重な情報源です。定期的に友人や先輩アーティスト、またはオンラインのコミュニティなどで、作品の評価を求め、反省点を明確にしていくことが大切です。
構図力を向上させるための練習法は、多岐にわたりますが、最も大切なのは継続的な努力と反省です。毎日の練習を欠かさず、自らの進化を考えながら、アートの世界での表現力を高めていきましょう。
まとめ(構図の力: 鉛筆画・デッサンのテクニックとその進化)
アートの世界、特に鉛筆画やデッサンにおいて、構図は作品の魅力やメッセージを伝える上での核心的な要素となります。
正確な線の引き方やトーンの深さだけでなく、どのように要素を配置するかが作品の完成度を大きく左右します。これを強化するためには、効果的な練習法やテクニックの習得が不可欠です。
まず、基本線や黄金分割の基本線の引き方を理解することで、作品にバランスとリズムを持たせることが可能になります。
これらの基礎を理解することで、視覚的な調和や焦点の位置を明確にし、観てくださる人の目を引きつけることができます。
また、初心者から中級者へのステップアップでは、継続的な実践と反省がキーとなります。
特に、構図の事例紹介を通じて、基本線や黄金分割線を如何に駆使するかを学ぶことで、自らの技術や視点を磨き上げることができます。
実際の作品を分析することで、理論だけでなく、その実践的な適用方法も身につけることができます。
さらに、構図力を日々向上させるための練習ルーティンやテクニックの取り入れも欠かせません。毎日のスケッチ、名作の構図分析、テーマ性を持った制作、そして他者からの評価を得ることが大切です。
これらの練習法を日常に取り入れることで、自らの構図のセンスや技術を日々向上させることができます。
最後に、どんなに優れた技術や知識を持っていても、それを継続的に実践・研鑽しなければ真の技量は身につかないということを忘れてはいけません。
アートは終わりのない旅であり、その過程自体が作家の成長を促します。構図のテクニックや練習法を効果的に取り入れながら、自らの表現力を高めていくことが、真のアーティストへの道と言えるでしょう。
尚、この構図記事の他にも、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使って、さまざまな構図や発想を駆使することによって、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。
関連記事:鉛筆画・デッサンの魅力を最大限に引き出す!構図導入の必要性と方法とは?
ではまた!あなたの未来を応援しています。
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