初心者から中級者のための完全ガイド:鉛筆画での静物デッサンの質感の捉え方

鉛筆画

 どうも。鉛筆画家の中山眞治です。さて、これから落ち葉の季節ですが、風に吹かれて音を立てる落ち葉も、何となく風情がありますね。元気でお過ごしですか?^^

 ところで、静物デッサンは、アーティストの技術と感性が試される分野の一つです。特に鉛筆によるデッサンでは、そのシンプルさが、リアルな質感表現の難しさを感じさせるものです。

 このガイドでは、初心者から中級者を対象に、鉛筆での静物デッサンの質感を捉えるための方法を紹介します。

 独自のテクニック、実践的なアドバイス、そして実例を通して、皆さんのデッサンスキルを次のレベルへと引き上げます。

 質感を正確に捉えることで、作品はさらにリアルで魅力的になります。この完全ガイドを手に、アートの旅をさらに深めていきましょう。

 それでは、早速どうぞ!

基礎からのアプローチ:鉛筆デッサンの基本技術

 静物デッサンの魅力は、リアルな質感をどれだけ表現できるかにかかっています。その基本となるのは、鉛筆の使い方や基本技術です。

 本章では、デッサンの初歩から、しっかりとした基礎を築くためのアプローチを紹介します。

鉛筆の種類とその特性

 鉛筆には、さまざまな硬さや濃さの種類があり、それぞれが異なる特性を持っています。

 たとえば、Hの鉛筆は硬めで細かい線を描くのに適しており、Bの鉛筆は柔らかく、濃淡を表現するのに適しています。そして、使用する鉛筆の種類を適切に選ぶことで、表現の幅を広げられます。

関連記事:初心者必見!鉛筆画・デッサンで最適な鉛筆の選び方とその特性ガイド

描き始めのポイント:線の引き方

 線を引く際には、力の入れ方や、鉛筆を持つ角度、動かす速度など、細部にわたる技術が必要ですが、難しく考える必要はありません。描き進んでいく内に、徐々にコツを掴めます。

 まずは、ゆっくりとした動きで、均一な線を引く練習から始めましょう。その後、太さや強弱を変えてみることで、線の表現の幅を増やしていけます。

基本的な陰影技法

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 大寺聡 氏

 陰影技法は、物の質感や形を表現するための不可欠な技術です

 一定の方向で平行に線を引く「ハッチング」や、交差させて描く「クロスハッチング」など、基本的な陰影技法を身につけることで、物体の立体感を強調することができます。

 尚、クロスハッチングとは、縦横斜めの4種類の方向の線の中から必要な線を使ってトーンを入れていく方法ですが、球体などの曲面を持ったモチーフには、その曲面に沿った線でトーンを入れていきます。

 この基本技術を習得することで、静物デッサンの質感表現が格段にアップします。初心者の人も、これらのポイントを意識して日々の練習を積むことで、スキルをしっかりと築き上げることができるでしょう。

質感の基本:異なる材質の特徴と表現方法

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇 氏

 質感はデッサンの核心です。物の質感をうまく捉えることで、作品に命と深み吹き込めます。

 尚、異なる材質ごとに特徴的な質感があり、その特性を理解し、適切に表現することが求められます。本章では、いくつかの主要な材質と、その質感を鉛筆デッサンでどのように捉えるかについて解説します。

木の質感:自然な風合いを表現する

 木は独特の質感を持っています。板の場合などでは、木目の方向や模様、さらには年輪の厚みなど、微細な部分まで注意深く観察することが鍵です。

 柔らかい鉛筆を使って、滑らかな陰影を施すことで、木の暖かみや質感を表現することができます。

金属の質感:反射と輝きを捉える

 金属はその光沢が特徴的です。鏡のように反射する部分や、光が当たる場所の輝き、さらには影の部分の明暗差を強調することで、金属特有の硬さと輝きを描写することができます。

 硬めの鉛筆を使って、明暗をハッキリと描くことがポイントです。

布の質感:柔らかさとシワの表現

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

 布の質感はその柔らかさやシワ、ふんわりとした感触にあります。布の垂れ下がり方や折り目、シワの深さなどを注意深く観察し、柔らかい鉛筆で滑らかな陰影を加えることで、布の柔らかさや質感を再現します。

 異なる材質の質感を理解し、それを鉛筆デッサンで正確に表現する能力は、アーティストとしての技術を大きく向上させる要素となります。

 日常の中で多くの物を観察し、その質感に意識を向けて練習を積むことで、より高度な表現が可能となるでしょう。

テクニックの研究:リアルな質感を引き出すテクニック

出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明 氏

 静物デッサンにおいて、質感のリアルな表現は作品の完成度を大きく左右します。しかし、細部の質感を忠実に再現するためには、一般的な描画技術を超えたテクニックが求められます。

 本章では、実践的なテクニックを紹介し、リアルな質感の表現を追求するためのヒントとアドバイスを提供します。

階調(グラデーション)の魔法:立体感を生み出す

 グラデーションは、物体の形や質感を強調する上で非常に重要です。均一にグラデーションをつける技術や、急激な明暗の変化を円滑に表現するための方法など、緻密な練習が必要です。

 特に影の部分や物体の曲線を表現する際に、グラデーションのテクニックを駆使すると、作品に深みが出ます。

細部へのこだわり:質感の微細な違いを捉える

 質感の違いは、微細な感触の差によって生まれます。たとえば、石の表面のざらつきや、皮革の細かなシワ、紙の繊維の質感などを細かい線や点で表現することで、モチーフのリアルな感触を再現することができます。

 適切な鉛筆の選択や、線の太さ、密度の調整など、細部へのこだわりが質感の鍵となります。

影の探求:物体の位置と形を明確にする

 影は物体の形や位置、環境光の状況を示す重要な要素です。影の長さや形、濃淡、方向など、影を正確に描写することで、物体が存在する空間や環境を視覚的に伝えることができます。

 影の描写においては、光の方向や強さを常に意識し、リアルな立体感を出すためのテクニックを磨くことが大切です。

 静物デッサンにおけるリアルな質感の表現は、細部への注意と緻密なテクニックが必要とされます。これらのテクニックを習得し、継続的に練習を積むことで、作品の完成度を一段と高めることができるでしょう。

実践編:具体的な静物デッサンのステップバイステップガイド

第1回個展出品作品 静物Ⅰ 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 静物デッサンの魅力は、実際の物体を前にして、その細部までを描写する過程にあります。

 しかし、どこから描き始めてよいのか、どのように質感を表現していくのか、初心者の人には難しく感じるかもしれません。本章では、具体的な静物デッサンの手順をステップバイステップで解説します。

構図の決定:全体像を捉える

 最初に、描きたい物体をどの角度から表現するか、全体の構図を決定します。ここでの用いる鉛筆は、Bや2Bの柔らかい鉛筆を親指・人差し指・中指でつまむように持ち、優しいタッチで描き進んでいきましょう。

 その理由は、筆圧を高めた描き方では、当初試行錯誤して全体を捉えていく中で、修整時に「練り消しゴム」で消しきれず、場合によっては、スケッチブックなどの紙の表面に鉛筆跡が食い込んでしまうからです。

 前述のような鉛筆の持ち方で、最初から決定的な描き方をするのではなく、自由に楽しんで全体を何本もの線で試行錯誤しましょう。

 やがて、「この線だ」と思える状態になるはずですから、その状態で全体の輪郭を取って、余分な線を「練り消しゴム」で整理しましょう。

 ここでは、物体の位置関係やバランスを考慮しながら、緩い線で大まかな形をスケッチします。この段階では細部は気にせず、全体のバランスを重視します。

※ 構図については、この記事の最下部に掲載している記事を参照してください。

輪郭の描写:物体の形を明確にする

 次に、スケッチした大まかな形に基づいて、物体の輪郭をしっかりと描き進んでいきます。ここでの鉛筆の持ち方は、文字を描く際の持ち方へ変更しましょう。

 ここでのポイントは、物体の形状やカーブを正確に捉えることです。鉛筆の硬さや太さを変えることで、線の質感や強弱を表現することもできます。

 筆者の場合には、この輪郭をしっかりと描き込んでいく際に使用している鉛筆は、HBが多いです。濃すぎず・薄すぎないこの鉛筆のトーンで、それほど筆圧を高めないで、基本となる輪郭を浮かび上がらせましょう。

質感と陰影画法:物体の特性を表現する

 輪郭が完成しましたら、質感や陰影画法に移ります。ここで使用する技術やテクニックは、前述した質感の「テクニック研究の章」を参照してください。

 物体の質感、光の当たり方、影の位置などを考慮しながら、細かい部分を丁寧に描き込みますますが、一番初めに取りかかる部分は、あなたが画面に収めようとしている中で、一番色の濃いトーンのところからです。

 その濃いトーンのところの暗さを基準にして、次に一段明るいところ、そしてさらにもう一段明るいところという具合に、描き進んでいきます。

最後の仕上げ:細部の調整と仕上げ

午後のくつろぎ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治

 最後に、全体を見ながら細かい部分の修整や調整を行います。ここでのポイントは、全体のバランスを崩さないようにすることです。

 必要に応じて、一部を消して再描画することもあります。仕上げが近づいてきましたら、今まで一番暗かったところをもう一段暗くしてみましょう。 

 そうして全体のようすを見ながら、トーンの修整が必要なところに追加で描き込んでいきます。この時点で最終的には、一番明るいところを「練り消しゴム」で拭き取りましょう。コーヒーポットの光っている部分などはまさにこの状況です。

 つまり、暗いところはより暗く、明るいところにはさらに明るくしてメリハリをつけるということです。暗いところをより暗くすることで、白い部分が光って見えるようになります。

 静物デッサンは緻密な観察と技術が要求されるアートの一形態です。上記のステップバイステップのガイドを参考に、自身のスタイルやテクニックを磨きながら、日々の練習を積み重ねてください。

判断の誤り:避けるべき質感表現の誤り

これは写真です

 静物デッサンの中でも、質感の表現は非常に難易度が高い部分です。しかし、適切な描画方法を知ることで、多くの初心者が陥りがちなミスを避けることができます。

 本章では、質感表現における一般的な誤りとその対処法を解説します。

均一な陰影を入れてしまう失敗:立体感の喪失

 多くの初心者が犯すミスとして、均一な陰影が挙げられます。物体に対して均一な筆圧で陰影を施すと、物体の立体感が失われ、平面的に見えてしまいます。

 解決策としては、光の当たり方や物体の曲線を考慮し、筆圧を変えるか、色合いがもう少し濃い鉛筆で陰影部分を暗くすることが推奨されます。

 つまり、曲面の明るい部分と暗い部分をよく観察して、物体の形状に沿って暗い部分へは、筆圧を高めるか一段濃い鉛筆でトーンを入れるということです。明るい部分では筆圧を弱めた描き方をしましょう。

過度な細密描写をしてしまうことによる失敗:雑多な印象の作品

 細部を過度に描写すると、作品全体が雑多な印象となり、視覚的な混乱を引き起こす可能性があります。

 特に、背景や不要な部分に過度な細密描写を施すと、主役や準主役の印象が薄れてしまうことがあります。重要なポイントに焦点を当て、余計な細密描写は省くことが大切です。

 主役や準主役以外のモチーフに、細かな模様などを過度に細密描写してしまうと、観てくださる人の視線をその部分へ引きつけてしまいます。

 主役や準主役には細密描写は当然必要ですが、それ以外のモチーフには、意識的に「手を抜く」ことも必要なのです。

 筆者の場合では、主役・準主役以外のモチーフを描き込んでいく場合に、それらのモチーフに模様などがある場合には、省略することがあります。

 作品のメインのテーマである、「あなたが見せたい主役・準主役がはっきりと目立つように」あなたの都合の良いように修整してよいのです。これらの手法は「デフォルメ」と呼ばれ、削除・修整・加筆・変形など何でもアリです。

光源無視による見せ方の失敗:不自然な影の発生

 物体の影は、光源の位置や強さによって大きく変わります。しかし、光源を無視して影を描写すると、作品全体が不自然に見える原因になります。始めに光源の位置を決定し、その光源を基に影を正確に描写することが必要です。

 モチーフを合成して描く場合には、特にこのことには充分な注意が必要です。そのような際には、他のモチーフの影のでき方をよく観察して、影のでき方を同じように合わせて描くこともできるはずです。

 あるいは、手元に類似したモチーフがある場合には、実際にあなたの部屋の室内灯を消し、デスクの上にある照明を当てて、影のでき方やモチーフが光を受けて輝いている部分を検証しましょう。

質感表現の不足による失敗:物体の質感の不足

 異なる質感を持つ複数の物体を一つの作品内で描写する際、それぞれの質感を表現することが重要です。

 例えば、木と金属の物体を同じ画面に描写する際には、それぞれの質感を正確に捉えて表現することで、作品全体の完成度や質を向上させられます。

 質感表現は、静物デッサンの大きな魅力の部分であり、正確な観察と練習を重ねることで、熟練度を高めることができます。上記の誤りを意識して、繰り返し練習することで、よりリアルな質感表現が可能となります。

質感表現の応用:次のステップへのアドバイス

第1回個展出品作品 野菜 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 質感の表現が上手くできるようになると、静物デッサンは一段と魅力的なアートになります。しかし、一度基本をマスターすれば、さらなる進化と深化は止まりません。

 本章では、基本を超えた質感表現の応用方法や、次のステップへ進むためのアドバイスを紹介します。

異なる素材での挑戦:新しい視点の発見

 鉛筆画だけでなく、チャコール(木炭)及びボールペンやインクなど異なる素材を使って、静物デッサンに挑戦することで、新しい質感の表現方法や視点を発見できます。

 異なる素材はそれぞれ独特の特性を持ち、質感の再現方法も異なります。多角的にアプローチすることで、より豊かな表現力を身につけることに役立てられます。

 しかし、鉛筆画として深く取り組んでいく場合には、他の画材との混合は、大変厳しい調整を伴いますので、そのような場合には、一番濃い鉛筆は12Bまでの濃さを購入することができます。

 この濃い色を導入することで、チャコール(炭)ではないものの、それに近い「さらに劇的な印象」を画面上で再現できるでしょう。ただし、この鉛筆はどこでも販売されているものではありませんので、大手画材店へ問い合わせてみましょう。

 筆者の場合には、この12Bは使っていませんが、三菱ユニの10Bまでの鉛筆の濃さで充分対応できています。

※ 11Bや12Bの鉛筆はファーバーカステルという商品のシリーズにあります。

実験的な技法の導入:表現の幅を広げる

 従来の方法に囚われず、新しい技法や方法を試すことで、表現の幅を広げることが可能になります。

 例えば、スクラッチボードを使用して、白い部分を削り取る方法や、混色を活用して微妙な色の変化を表現するなど、常に新しい方法を取り入れて挑戦し続けることが大切です。

 このような取り組みを進める際には、鉛筆・チャコール(炭)・インク・ボールペンの他にも、グラファイトなどを使って制作することもできます。

 尚、グラファイトとは「黒鉛」と名称が付いていますが、ペンシルタイプのグラファイトは面を使って幅広い線を描いたり、とがった部分で細い線を描いたりと描画材料として使用します。

 また、黒色の粉末のグラファイトは、画面に擦り付けたり、水で溶いて刷毛で塗って使います。

多角的な観察:深い洞察力を得る

 質感を深く捉えるためには、物体を多角的に観察することが重要です。物体の表面だけでなく、その背後や側面、さらには異なる光の条件下での観察を繰り返すことで、物体の質感や特性をより深く理解することができます。

批評と評価:成長の糧とする

 他のアーティストや先生からの批評や評価を受け取ることは、自身の作品の弱点や成長の方向を知る上で非常に有益です。

 客観的な視点での評価を受け入れ、それを自身の成長の糧とする姿勢が、質感表現をより高いレベルへと導きます。

 質感表現の応用は無限大です。常に新しい挑戦を楽しみ、多様な方法でのアプローチを試みることで、独自のスタイルと深みを持った表現力を磨き上げることができます。

まとめ

第1回個展出品作品 休日 1996 F10 鉛筆画 中山眞治

 静物デッサンは、アートの世界では、基礎として位置付けられる技法の一つです。その中でも、質感の表現はアーティストの技量が問われる部分であり、緻密な観察と高い表現力が求められます。

 初心者から中級者まで、その技法の習得は簡単ではありませんが、適切な方法とアプローチで、写実的な質感を描写することができるようになります。

 基礎からのアプローチを学ぶことにより、物体の形状や立体感を捉える基本技術を身につけることができます。しかし、表現の深化を目指すためには、質感の基本を理解し、異なる材質の特徴や表現法を習得することが不可欠です。

 それをもとに、リアルな質感を引き出すテクニックや、具体的な静物デッサンのステップバイステップのガイドを学ぶことで、さらなるスキルアップが可能になります。

 もちろん、学びの過程での誤りは避けられません。しかし、それらの誤りを理解し、適切な方法で修整することによって、成長の糧とすることができます。

 そして、基本を超えた質感表現の応用方法や、次のステップへと進むためのアドバイスを取り入れることによって、独自のスタイルを築き上げることが可能になります。

 最終的に、異なる素材での挑戦や新しい技法の導入、多角的な観察、そして他者からの批評や評価を取り入れることによって、質感表現のスキルはさらに磨かれ、アーティストとしての個性や深みを持った作品を創り出すことができます。

 あなたは、このような学びの過程を通じて、静物デッサンの質感表現における深い洞察や理解を得ることができるでしょう。

 常に新しい挑戦を楽しみ、多様な方法でのアプローチを試みることで、アートの世界において独自の位置を築くことができるはずです。

 尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。

 それは、あなたの制作する画面全体を使って、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事も参照してください。

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 ではまた!あなたの未来を応援しています。

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