どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
さて、この記事は、鉛筆画やデッサンを愛するすべての人へ向けたものです。初心者から上級者まで、心象風景を描くための段階的なプロセスを紹介します。
準備から本制作、仕上げまで、あなたの技術を次のレベルへと引き上げるための具体的なテクニックとアドバイスを提供し、美術の基本から応用まで、鉛筆だけで創り出す世界を深く掘り下げます。
それでは、早速見ていきましょう!
心象風景とは?| 鉛筆画・デッサン初心者ガイド
海外の心象風景の著名な画家の作品では、グレコ「聖マウリテレスの殉教」・ゴッホ「星月夜」・ピカソ「アビニョンの娘たち」等、それ以外にもたくさんの大御所の作品群があります。日本では、宮沢賢治や東山魁夷などが有名です。
心象風景とは、作者の心の中に思い描いた景色であり、体験及び感情や感覚によって生み出される想像上の風景です。つまり、あなたが描く自分自身の理想の風景であるといえますし、心の中で思い描くイメージやメッセージともいいかえられます。
あるいは、非日常感の強い・不思議で通常では得られない・通常の観念ではありえない風景ともいえる、創作した絵画作品ということができるのではないでしょうか。
あなたも、あなた自身の思い描くイメージをさまざまな画像を組み合わせて、且、鉛筆画による光と影(白と黒)の劇的な組み合わせによる制作で、心象風景を表現することが可能です。
参考:バリアート ショールーム シュピース・スタイル
Spies Style | スタイル一覧 | バリアートショールーム (balikaiga.com)
鉛筆画・デッサンの制作プロセス | ステップバイステップガイド
鉛筆画・デッサン制作のための準備 | 完全チェックリスト
最初に、あなたが手始めにすることは、次のような順序です。また、できれば、あなたのリラックスできる静かな音楽の用意と、部屋の中は心地よい温度や湿度に設定しましょう。
鉛筆画・デッサンのアイデア発想法 | メモから始める構想の育て方
まずは、あなたの身の回りにあるA4サイズの紙を用意して、それを正確に半分に切り、今回のあなたの作品のまずはメモ描き程度で自由に構想を練りましょう。私の場合には、この段階では着想の整理程度で完了します。
鉛筆画・デッサンのエスキース入門 | 下絵で構図をマスターする方法
まず最初に、あなたの身の回りにあるA4サイズの紙を用意して、それを半分に切り、今回のあなたの作品の、まずはメモ描き程度で自由に構想を練りましょう。
そして、ここで用意したA4サイズの紙を正確に半分に切ったものを、エスキースとして使うことも充分可能なので、フリーハンドや実際に測ってでも良いのですが、構図分割基本線を入れます(構図分割基本線の詳細はこの先で述べます)。
もしも、きちんと測って構図分割基本線を入れるならば、その線はボールペンで引いておくと、そこへ鉛筆で描き込んでいけば何度でも試行錯誤できます。
そして、最終的に、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えます。
鉛筆画・デッサン本制作への移行 | 制作過程の理解
エスキースが実際の制作画面よりも小さい時には、拡大していくことになりますので、そのことを頭に入れて画面に向き合いましょう。多少の違いは本制作画面で修整するくらいの気持で取り組めば問題は少ないはずです。
効果的な鉛筆画・デッサンの構想の練り方
鉛筆画・デッサン制作の目的と構成の明確化
今回の制作例では、樹木の芽が「外界に向かって展開し始めた状況」を主役にして、夜が明けて間もない光景の「抜け」の中に、遠近法を用いて画面深度を高められるように制作します。
また、傾斜した地平線と斜めに配置した樹木群によって、画面全体に動きを出し、水平垂直のモチーフによって、画面を鎮める工夫もします。
そして、画面手前では、夜が明けたばかりの明るい空間(抜け※)で、全身で太陽の光を浴びている「外界に向かって展開し始めた状況」の樹木の芽を構成しつつ、見てくださる人の視線を明るい外界へ誘導します。
狙いとしては、躍動する生命の表現を目指します。尚、夜が明けたばかりの太陽にも淡くトーンを入れて描くことで、主役のモチーフが引き立つようにも工夫します。
※ 「抜け」についてはこの先で詳述します。
鉛筆画・デッサンに必要な道具 | 完全ガイド
そこで、その後何をしたかといえば、以前からコピーで手元に置いてある、図書館で調達した幼児向けの絵本で、「樹木の発芽」という本から入手した画像のコピーを用意しました。
また、画面上に登場させる、2つの「ドングリ」と、画面一番手前の左下には、「マッチ棒の燃えカス」も登場させます。これは、斜めの地表の動きを鎮めるための水平線を、マッチの軸で表現するためです。
鉛筆画・デッサンのキャラクター作り | 主役から脇役までの描き分け方
国画会展 入選作 誕生2015 F130 中山眞治
今回の制作では、主役は「外界に向かって展開し始めている状況」の樹木の芽です。そして、準主役は、「太陽」及び樹木の種である「ドングリ」と遠近感を出すための「3本の樹木」です。
この準主役の「ドングリ」は、生命の根源ではあるものの、まだ「誕生の瞬間」を迎えていない状態です。ある意味で、まどろんでいる生命ということができます。
一方、脇役は画面一番手前左の「マッチ棒の燃えカス」や、画面右下の画面に全体が入っていない「ドングリ」ということになります。この2つのモチーフは、目立たないようにトーンを入れて、主役を引き立てることを意識します。
尚、今回の主役は「外界に向かって展開し始めている状況」なので、「まどろんでいる生命」が「外界に向かって展開し始めた生命」へと進む時間の経過を表す気持ちで制作を心がけます。
効果的な鉛筆画・デッサンの構図 | モチーフの配置テクニック
今回の筆者の心象風景の制作例は、テーマの主体である構図に、①黄金分割(主役のモチーフの樹木の芽と太陽の位置)②太陽を頂点とした三角形の構図③3つの樹木のモチーフによってリズムと同時に遠近感を出す、を入れる予定で進んでいます。
また、「リズム」は、同じモチーフを3つ以上使って、連続した動きを出すことが、見てくださる人へ「リズム感」を与えられるので、覚えておきましょう。
例えば、地面が割れて、植物の芽がわずかに顔を出す・地中から抜け出ていないながらもわずかに成長した状態・地中から完全に抜け出て双葉を広げようとしている状態などによっても、リズムは出せます。
関連記事:鉛筆画を初心者が簡単に複合した構図で描く方法!(心象風景Ⅴ)
鉛筆画・デッサンにおける構想|何をどのように描くか考える
この構図とモチーフの配置を決める段階では、構図基本分割線上に、それぞれのモチーフを落とし込んで制作するということであり、各種構図基本線の配置に対して、何をどのように描いていくかということを考えることでもあります。
あなたが、今回の記事を参考にして制作する場合でも、主役・準主役及び脇役や全体のレイアウトはどうするかを決めていきましょう。この、構想を練ることの大きなヒントは、下の関連記事を参照してください。
尚、あなたが私の制作例に使っていないモチーフで、同じような構図で制作しても何ら問題ありませんが、私の制作例をそのまま使うことは、著作権がありますのでできません。あしからずご承知おきください。
関連記事:鉛筆画・デッサンで差をつける:初心者から上級者までの制作構想の重要性とは?
鉛筆画・デッサンの下絵の基本 | エスキースの作り方
次に、下絵(エスキース)のサイズを実際に測って、構図分割線を入れていきます。 既述していますように、構図基本線を入れ下絵(エスキース)ならば、その線はボールペンで入れておくと、そこへ鉛筆で描き込んでいけば何度でも試行錯誤できます。
さらに、構図上の不足する部分に他のモチーフを加えたり、「削除」「省略」「修整」「強調」「変形」「拡大」「縮小」して補うことにより、エスキースを仕上げることができます。
最終的に、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えて、あるいは作品によっては構図上の不足する部分に他のモチーフも加えて補うことにより、エスキースを造ることができます。
具体的には次の画像のような基本線を引くことから始めます。
鉛筆画・デッサンでの構図基本線の引き方 | エスキース入門
まずはこのように、各種構図基本線を引きますが、具体的な分割点の割り出し方は順を追って詳述します。
効果的なエスキースの作成方法 | 鉛筆画・デッサンの基礎
次は、あなたが取り組む本制作に入る画面の縮尺をかけたエスキースの画面に、構図分割基本線を引きましょう。
あなたが、本制作に入る画面の大きさをF10のスケッチブックのサイズで取り組むものとして、そのエスキースをA4の紙を正確に2つに切ったもので制作する場合には、次のようになります。
鉛筆画・デッサンのエスキースで画面全体を活用する技法
F10の長辺は528mm・短辺が454mmであり、あなたが手元に用意したエスキース(A4の紙を正確に2分割した物)は、その短辺のサイズは148mmなので、F10の短辺のサイズ454mmで割ると、0.3259という数値が出ます。
そして、F10の長辺は528mmなので、この長さに上記の縮尺(0.3259)をかければ、172.07となりますので、あなたのエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができるということです。
このことをわかりやすく説明すると、F10の短辺をエスキースの短辺に対する縮小値を出して、その値をF10の長辺にかけることで、エスキース上にF10の長辺のサイズを割り出すということです。
このエスキース上に、何度も描いたり消したりを繰り返した結果として、あなたの納得のいく下絵が完成しましたら、そのエスキース上の各種モチーフの主要な位置を測って縮尺値で割れば、F10の画面上に正確な位置を特定できます。
鉛筆画・デッサンのエスキースの構図分割 | 長辺短辺の2等分割と対角線
次に、上記画像のように、長辺短辺の2等分割線(③④)及び各対角線(①②)を引きます。
「抜け」の技法で鉛筆画・デッサンを引き立てる
絵画の制作では、外界へ抜ける部分を意図的に作ることがあります。今回の制作例では、上記画像の茶色線で囲まれた部分です。あなたも、制作例によっては、窓を模した外界へ、観てくださる人の視線を導くことができます。
この各種基本線は、2Bや3Bなどの柔らかい鉛筆の軽いタッチで、親指・人差し指・中指でつまむように持ち、優しく描き込みます。
この時筆圧を強く描き込んでしまうと、のちの工程で練り消しゴムでは消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのためには筆圧をかけ過ぎず優しく引くことが必要です。
鉛筆画・デッサンにおける「抜け」の効果 | 応用テクニック
画面上に「抜け」があることによる効果は、観てくださる人の息苦しさを解消できます。それは、意識がその「抜け」の先にある外界のひらけた空間に向けられて、解放感を与えられるからです。
この「抜け」とは、作品によっては意図的に窓などを作って、外界への「抜け」を作ることもできます。また、その効果は、心象風景以外のどのジャンル(花・人物・静物・動物・風景)にでも応用できます。
鉛筆画・デッサンの画面レイアウト計画 | 効果的な配置方法
- 黄色線:斜線2本と縦横の2分割線(①②③④)
- 水色線:画面縦横の黄金分割構図基本線各2本(⑤⑥⑦⑧)
- 赤色線:画面縦の√2分構図分割基本線(⑨)
- 桃色線:√2の地平線に角度をつけた新たな地平線
- 青色線:三角形の構図を示す線
- 紫色線:楕円の枠内の樹木が垂直、長方形の枠内が水平の配置によって画面を鎮める
- 黒色線:見てくださる人の視線を誘導する線
次に、すべての構図分割基本線を描き込んだ後で、黄金分割基本線⑥上に太陽と主役を配置して、主役の立ち位置は、⑨の√2の地平線を左に傾けて動きを出します。
また、太陽を頂点として主役の左下のドングリの先端・主役の背後の遠近感も出すための3本の樹木で3角形を構成し、且、この3本の樹木で「リズム」も出します。
さらに、主役の下にあるドングリの先端の背後の樹木は、黄金分割の⑤から出発して左に傾いているように描き込んでいきます。
尚、画面縦の√2構図分割基本線の位置⑨にモチーフを置きますが、この点につきましては順を追って説明していきます。また、この時に、作品によってはそれ以外のモチーフも検討して、各導線との交わり方や導線の導き方も同時に考えていきます。
鉛筆画・デッサンでの中心点の扱い | 注意点とテクニック
今回の制作例では、画面の寸法上の中心点が主役にかかっていますが、主役の中心点とは重なっていないので、問題ありません。
しかし、絵画の制作上においては、意識的に中央へモチーフを配置する場合は別として、複数のモチーフで構成する画面では、できるだけ画面の寸法上の中心点を避けて制作しましょう。
それは、画面の寸法上の中心点に、主役・準主役などのモチーフの中心点を重ねてしまうと、「動きが止まってしまう」からです。
尚、意図的な制作例の人物画や動物画などで、画面にモチーフの面積を大きくとる必要があるときには、これらのことは該当しませんのでご安心ください。^^
鉛筆画・デッサンの基本線とエスキースの整合性
今回の完成時のイメージは、観てくださる人の視線を画面左下の角Cから真ん中の主役のモチーフを通って、抜けの外の外界へとつながって右下へカーブする導線を使います。
そして、主役の位置する黄金分割構図基本線のモチーフの最上部には「小さな水滴」がついていますが、この水滴の位置は、黄金分割線⑥と⑦及び斜線①の交点なのです。
また、画面縦の2分割線の④に対して、遠近感を出すための3本の樹木の一番手前の樹木の高さを揃える位置として使い、同時に紫色の楕円で囲んだ樹木の葉の繁み下方の位置もその線に合わせることで、2分割線の存在も表現できます。
鉛筆画・デッサンのモチーフの発見 | 鑑賞者を驚かせる方法
尚、私たちの生活している周辺の地面を見ると、最近ではタバコを吸うのにマッチを使う人は少なくなりましたが、落ちていても不思議ではありません。
画面上一番手前の左下角付近にあるのは「マッチの燃えカス」ですが、意外なモチーフは発見できた人を楽しませることができます。
このようにモチーフを目立たないように描くことで、「はっきりと何が描いてあるのかよくわからない」という部分も大切です。
なんでもあからさまに描くことが必ずしも良いことではありません。観てくださる人が「ひょっとして〇〇では!」という感じが良いのです。
ここまで述べましたように、画面上の構図分割基本線という大きな力を持った線を有効に使うことを心がけて制作しましょう。
つまり、各構図基本線を使って、できるだけモチーフの位置・高さ・幅、あるいはモチーフの中心点になるように考慮して画面構成を考えるということです。
視線を引きつける鉛筆画・デッサンの制作法
全体のレイアウトをおこないながら、最終的な主役の画面上の輝き加減も考慮する必要があります。主役のモチーフを輝かせたい場合には、主役の周囲のトーンを濃くするということになります。
一方、画面の中の「抜け」の部分にも慎重にトーンを入れることで、画面全体のモチーフの中で主役の輝きを一番大きくして、主役を引き立てられます。
上の作品をご覧ください。主役は画面中央右手の植物の「芽」ですが、背景には8Bや9Bを使っており、周囲全体へもトーンを濃く入れているので、主役が輝いて見えませんか?こんな感じにするということです。
鉛筆画・デッサンの画面構成上の考慮事項 | 効果的な配置とバランス
ここで肝心なのは、すべてのモチーフの中で主役以外のモチーフを克明に描き込みすぎてしまうと、観てくださる人の注意をその部分に集中させてしまいます。
そこで、主役以外のモチーフには注意が集中しすぎないように描き込むようにします。制作例であれば、主役の周辺の樹木は、何となく樹木に見える程度でよいのです。
遠近感を出すための樹木も、何となくそれらしく見えればOKです。比較的わかるように描き込むとすれば、主役の左下の「ドングリ」くらいでしょうか。
このように、細かく描き込みすぎないように注意しましょう。言ってみれば、意図的に手を抜くということです。
主役のそばの「ドングリ」を比較的わかるように描けば、画面右下の「ドングリ」も、全体の姿が見えていなくても、観てくださる人には想像してもらえます。しかし、「マッチの燃えカス」はわからないでしょうね。^^
これらのことを、A4の半分のメモ程度の紙に、「描いては消し描いては消し」を繰り返して、いかにして基本線を有効に使ったレイアウトや充分な強調ができるかを考えて、エスキースを完成させます。
実際に鉛筆画・デッサンを描く前の準備 | 画面サイズの選び方
スケッチブックのメーカーによっては、若干寸法が異なることがありますので、制作当初に実際のサイズを確認して正確な構図基本線を引きましょう。
このことは、スケッチブック以外にも、例えばパネルに水張りした画面で制作する場合のF100や、それ以上の大きさの画面にも共通していえることです。
あなたも制作を進める際には、実際に描き込む画面のサイズに合わせて構図基本線を引きましょう。これは最も重要な点です。
鉛筆画・デッサン本制作での構図基本線の引き方
- 黄色線:斜線2本と縦横の2分割線(①②③④)
- 水色線:画面縦横の黄金分割線各2本(⑤⑥⑦⑧)
- 赤色線:画面縦の√2分割線(⑨)
- 桃色線:√2の地平線に角度をつけた新たな地平線
- 青色線:三角形の構図を示す線
- 紫色線:楕円の枠内の樹木が垂直、長方形の枠内が水平の配置によって画面を鎮める
- 黒色線:見てくださる人の視線を誘導する線
それぞれの線についての説明は次の通りです。
黄色線:上記の画像の黄色線は、それぞれの対角線と長辺短辺の2分割線(①②③④)
水色線:画面縦横の黄金分割線各2本(⑤⑥⑦⑧)
赤色線:画面縦の√2分割線(⑨)
√2構図分割基本線⑨を引く際には、既成のF10で制作を進める場合、筆者の使っているF10のスケッ チブックの大きさは長辺が528mmで短辺は454mmです。
なので、短辺の454mm÷1.414=321mmになるので、321mmの位置が√2比率の分割点になります(⑨)。今回の制作例では1つしか使いませんが、この分割点は上下どちらからでも設定することができます。
桃色線:√2の地平線に角度をつけた新たな地平線
本来の√2の地平線に角度をつけますが、急角度にしてしまうとその下で水平線を使うためのマッチ棒に接触してしまうので、そのマッチ棒に当たらないような角度にしましょう。
この場合、BDと√2構図分割基本線の交点から左に傾けますが、この角度を分度器で測ったところ「5°」でした。また、角度がわずかな場合にはよくわからなくなってしまうので、ほど良い角度にしましょう。
青色線:三角形の構図を示す線
太陽を頂点として、主役の左下のドングリの頂点と、主役の後ろの遠近感を出すための3本の樹木の一番奥の樹木で三角形を構成します。
紫色線:楕円の枠内の樹木が垂直、長方形の枠内が水平の配置によって画面を鎮める
今回の制作例の中で、この楕円形の中の「垂直」や長方形の中の「マッチの燃えカスを使った水平」がなくなるとすれば、画面の動きを制御することができず、まとまりのない作品になってしまいます。
傾けた場合には、その動きを鎮める工夫が必要なのです。逆に、水平と垂直だけで描かれた絵は、動きがなくて、単調な印象になってしまいます。なので、上手に組み合わせることが必要になってきます。
黒色線:見てくださる人の視線を誘導する線
筆者がいつも考え込んでしまう点です。全体のレイアウトを考える際には、これらのこともよく考えましょう。そのためにも、構図基本線や導線を意識しましょう。
手っ取り早いのは、「抜け」を作って、そこへ観てくださる人の視線を誘導することであるとも言えます。
鉛筆画・デッサン本制作での構図とモチーフの整合
鉛筆画・デッサン本制作への具体的アプローチ
構図基本線上に、先ほど制作したエスキースに基づいてレイアウトします。実際に描き始める際には、まず全体を大づかみでとらえて描き進んでいきます。
細かいことはさておいて、2Bや3Bなどの柔らかい鉛筆を親指・人差し指・中指でつまむように軽く持ち、全体を優しいタッチで描いていきましょう。
そして、この段階では、今後のあなたの作品によっては、必要ならば長め・短めの定規やコンパスもどんどん使いましょう。フリーハンドで直線や曲線を描くことは、制作を続けていく中でゆっくりと慣れていけばよいのです。
エスキースを基にした鉛筆画・デッサン本制作の配置
絵画の制作では、主役がいかに主役らしく見えるかが一番重要なので、主役が目立つように周囲にトーンを入れていきましょう。
また、観てくださる人の視線を右上の空間へ導くためにも、太陽の陽の出からまだ間がないような、トーンを入れていきましょう。つまり、この太陽をぼんやりとしたトーンにすることで、主役の輝きを強調できます。
太陽の周辺のぼんやりした日差しにするには、太陽の円の中には、8H~9Hで描き、円のすぐ外側には3H~4Hで描き、さらにその外周は2H→H→HBで描き進みます。
この太陽を中心とする空のトーンの入れ方は、一番時間がかかりますが、うまくいけば充分な満足感を得られるので気長に楽しんでいきましょう。
鉛筆画・デッサン制作のノウハウ | 他の作品への応用
制作にあたっては、構図分割基本線を意識してレイアウトしますが、作品によって画面に納まりきれない部分は画面の外にハミ出てよいのです。あなたの描く画面には、あなたの必要とする部分だけを切り取って描きましょう。
それは、モチーフ全体を無理に画面に収めようとすれば、窮屈になってしまうからです。逆に、画面からハミ出ることによって、画面の外への広がりが表現できることになります。
尚、画面最下部の底線CD上にモチーフを「乗っけた」ようにレイアウトすることは、重大な禁じ手なのでこれも覚えておきましょう。私はこれをやって叱られたことがあります。^^
斜線導線暗示を取り入れた鉛筆画・デッサンの構成
尚、画面左上の角Aからの斜線②は、垂直を使った制御をするための樹木の上部をかすめ通り、画面右下のドングリもかすめ通って、画面右下の角Dへ到達させます。
一方、画面右上の角Bから出発した斜線①は、主役についている小さな水滴を通過して画面左下の角Cへ到達しています。
導線暗示の工夫 | 鉛筆画・デッサン制作テクニック
尚、あなたが作品を制作する際には、構図基本線や斜線が通っていることを画面上のレイアウトや、モチーフの凹凸なども含めて暗示しましょう。
制作例では、主役についている水滴も役に立つ点を示していますが、「枯葉の虫食い」や「モチーフの中心点(壁掛け時計等)」も導線暗示に活用することができます。
理想の鉛筆画・デッサンを描く | 本制作画面の変換
尚、実際のモチーフの形状は画面構成上修整することもあります。これは、どの画家もほとんど行っていることで、デフォルメと呼ばれています。
これらの構図基本線との重ね合わせは、構図の成り立ちを示すためでもあり、その暗示も含めて画面全体のバランスをとっているのです。
デフォルメは、風景画の場合であれば実際の景色には電柱や電線があっても、作者の意図する一番見映えのする画面にするために省略してしまうこともあります。
それは、現存する状態に修整を加える事であり、「省略」「削除」「修整」「変形」「強調」「つけたし」「拡大」「縮小」など何でもアリです。
鉛筆画・デッサン本制作での構図とレイアウトを再考
最初に描き込んだ、全体の輪郭を取った際のたくさんの線を練り消しゴムで整理しますが、こののちトーンを入れていくところにある線はそのままにしておきましょう。なぜならば、そこにはこれからトーンを入れていくので消す必要がないからです。
そして、モチーフにかかっている線や、抜けの中にある線は消しておきましょう。仕上げに向かって、明るい部分にするところにある無駄な線は目立ってしまうので、必ず消しておく必要があります。
また、練り消しゴムで消したところは、その後トーンを入れていくと、消していないところと比較すると鉛筆の乗り具合が少しだけ違ってくることがあります。そこで、できるだけ練消しゴムで消す部分を少なくすることが必要です。
鉛筆画・デッサンの仕上げ | メリハリのある表現方法
練り消しゴムでたくさんの線を整理した後は、いよいよ各モチーフのレイアウト後の制作工程に入りますが、その際には一番暗いところからトーンを入れていきましょう。
制作例の描き始めは地面ですが、画面一番手前から2Bから描き始めて、地平線に進むにしたがって、3B→4B→5B→6Bとだんだん濃くしていきます。主役モチーフの種の殻には、最終的に8B→9Bまで使っています。
鉛筆画の仕上げ | 明暗部の強調テクニック
光る部分の強調方法 | 鉛筆画の仕上技法
完成が近くなってきましたら、全体を観察してみて本来ハイライトであるべきところが、もう一つ明るくなくて、光っているように見えない場合には、その光っているべきところと隣接している部分や背景の黒さの度合いが足りていない場合があります。
光をより光らしくする場合には、隣接する部分や背景をより濃い黒にすることで、まぶしく光っているべき部分を強調することができます。
制作例で一番明るいところは、主役のモチーフの輪郭線部分です。つまり、一番明るいところは下地の紙の色ということです。
絵画鑑賞のすすめ | 鉛筆画・デッサン制作のインスピレーション
絵画公募展のおすすめ | 観るべき展示ガイド
ところで、たまには絵を見に行きませんか。筆者の印象では、日展は「きれいなだけで個性的で野心的な作品は少ない」記憶しかありません。
おすすめは第一に国画会の展覧会である「国展(4月末~5月中旬)」、次いで独立美術協会の展覧会である「独立展(10月)」や、新制作協会の展覧会である「新制作展(9月下旬~10月上旬)」です。
展覧会(全国公募展等)へ行きましたら、細かな技法ばかりを見るのではなくて、作品全体から受けるあなたの印象が重要です。
最初の内はよくわからなくても、あなたが強く惹かれた・感性に響いた作品の印象をあなたの作品にどう反映できるかを考えるのです。
絵画鑑賞のコツ | 大切な要素の見つけ方
筆者は恥ずかしながら、抽象画がいまだによくわかりませんが、印象に残る具象画を観て帰ってくると、その印象を自身の作品に、どのように取り込むことができるかを考えるようにしています。
しかし、そっくりまねることはやめましょう。著作権がありますし、意味もありません。
細かいところまでを全部取り込もうとするのではなく、構図などの大きな成り立ち及び配置や濃淡のつけ方、画面の持っている「新たな着想」などを取り込むようにするということです。
もっと具体的に言えば、構図やデッサンは当然一番重要ではあり充分観察が必要ですが、あなたの感性に響いた作品の4隅(4つの角の周辺処理)は、どのように充実させているかということを研究することはとても重要です。
つまり、絵画は大きな景色の中の一部分にすぎないので、その絵画の4隅の各外側への視線の誘導なり、意識が向かうような仕掛けをどのように施しているかを観察するということなのです。
今回の、筆者の制作例を改めて観察してください。それぞれの角に視線が及ぶような仕掛けをしていることに気づかれるはずです。その意識をもって、展覧会などで鑑賞してみてください。あなたの新たな制作に対する視点を開拓できます。
参考情報
国展:第98回国展(2024年) 出品要項 出品票請求フォーム | 国展 (kokuten.com)
まとめ
青木繁記念大賞展 奨励賞 郷愁 2001 F100 鉛筆画 中山眞治
この完全マスターガイドを通じて、鉛筆画やデッサンの制作過程を徹底的に解析し、初心者から上級者まで、どんなレベルのアーティストも自身の技術を向上させることができます。
基本的な準備から始まり、メモ描きによるざっくりとした構想の試行錯誤、エスキースの作成方法、そして本制作への移行といった一連のプロセスを細かくガイドします。
更に、鉛筆画・デッサン制作における構図とモチーフの配置、画面構成のために必要な要素、そして最終的な仕上げのテクニックまで、幅広くカバーしています。
絵画鑑賞にも触れ、アート制作だけでなく鑑賞することの重要性と、それがいかに自身の作品にインスピレーションを与えるかを解説しています。
このガイドは、鉛筆とスケッチブックや紙だけで表現できる無限の可能性を探求し、読者が自分自身の心象風景を描き出すための力強いサポートとなるでしょう。
読者は、技術的なアドバイスやテクニックを学びながら、自身の内なる世界を視覚化するための新たな方法を発見する旅に出ることになります。
最終的には、鉛筆画・デッサンの制作を通じて、より表現豊かで意味のある芸術作品を創り出すことができるようになるでしょう。
これらの一連の、「没頭できる充実した時間」によって生み出される作品は、あなた自身の自己達成感につながります。描くから上達する、上達するからさらに「嬉々として没頭できる」へと「連続的な成功体験」へとつながっていきます。
また、各種展覧会や公募展への出品や、大きな自分自身の区切りとなる「個展の開催」へと続いていけば、自然とプロ画家になることもできます。
そこまで到達できれば、鉛筆画やデッサンは趣味を超えて、あなたの生活の「大きな核(生き甲斐)」となり、展覧会や公募展で知り合った仲間も増え、老後に何をしたらよいか「まごつく人々」をよそ目に、あなたに充実した日々を約束してくれます。
尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使い切って、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事も参照してください。
関連記事:鉛筆画・デッサンの魅力を最大限に引き出す!構図導入の必要性と方法とは?
ではまた!あなたの未来を応援しています。
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