心象風景を描く:初心者から上級者のための鉛筆画・デッサン完全マニュアルⅧ

心象風景画の描き方

 どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

 さて、心象風景を鉛筆画で表現することは、観てくださる人の心に響く芸術作品を創造する活動です。

 この記事では、初心者から上級者までが鉛筆画・デッサンの技術を磨けるよう、基本的な構図の描き方から、エスキースの作成、本制作の進め方まで、段階ごとに詳しく解説していきます。

 あなたも、このマニュアルを通じて、心に映る風景をスケッチブックや紙上に活き活きと表現する旅を始めましょう。

 それでは、早速どうぞ! 

  1. 心象風景アートとは?初心者ガイド
  2. 鉛筆画・デッサン入門:基本的な制作プロセス
    1. 鉛筆画・デッサンの準備:必要な道具と材料
    2. 構想の磨き方:鉛筆画・デッサンのアイデア出しテクニック
    3. 鉛筆画・デッサンの構想: 効果的なメモ描きの活用法
  3. 効果的な鉛筆画・デッサンの構想の練り方
    1. 鉛筆画・デッサンの構成と狙いを明確にする方法
    2. 鉛筆画・デッサンに必要な画面構成の要素
    3. 鉛筆画・デッサンのキャラクター設定:役割と重要性
    4. 鉛筆画・デッサンの構図とモチーフの配置方法
    5. 鉛筆画・デッサンの構図とモチーフの構成の考え方
  4. 初心者のための鉛筆画・デッサンの下絵(エスキース)の基本
    1. 鉛筆画・デッサンのエスキースでの構図基本線の引き方
    2. 効果的な鉛筆画・デッサンのエスキースの作り方
    3. 鉛筆画・デッサンのエスキースの効果的な画面利用法
    4. 鉛筆画・デッサンのエスキースに2等分割線と対角線を入れる
    5. 鉛筆画・デッサンでの「抜け」の活用方法
    6. 「抜け」の効果:鉛筆画・デッサンにおける応用例
    7. 鉛筆画・デッサンの画面レイアウト戦略
    8. 画面制御のためのモチーフ選定
    9. 鉛筆画・デッサンの中心点の重要性と扱い方
    10. エスキースと構図基本線の整合性の重要性
    11. 絵画を印象付ける小道具(モチーフ)の発見により鉛筆画・デッサンの魅力を向上
    12. 視線誘導:鉛筆画・デッサンを観てくださる人の視線を誘導
    13. 鉛筆画・デッサン構成時の注意点
  5. 鉛筆画・デッサン本制作前のサイズ確認が必ず必要な理由
    1. 鉛筆画・デッサン本制作における構図基本線の活用
  6. 鉛筆画・デッサン本制作:構図とモチーフの整合
    1. 鉛筆画・デッサン本制作進行方法
    2. エスキースを基にした鉛筆画・デッサン本制作の配置
    3. 鉛筆画・デッサン制作のノウハウ:異なる作品への応用
    4. 斜線の導線暗示とその重要性
    5. 鉛筆画・デッサンにおける導線暗示の簡単な取り入れ方
    6. 理想の鉛筆画・デッサン本制作画面を実現する方法
    7. 鉛筆画・デッサン制作:構図とレイアウトの最終確認
    8. 鉛筆画仕上げのメリハリのつけ方
  7. 鉛筆画仕上げ:明暗の調整テクニック
    1. 鉛筆画で光る部分を強調する方法
  8. 絵画鑑賞のススメ:インスピレーションを得るために
    1. 絵画鑑賞におすすめの公募展
    2. 絵画鑑賞のコツ:大きな要素の捉え方
  9. まとめ

心象風景アートとは?初心者ガイド


                  DorotheによるPixabayからの画像

 海外の心象風景の著名な画家の作品では、グレコ「聖マウリテレスの殉教」・ゴッホ「星月夜」・ピカソ「アビニョンの娘たち」等、それ以外にもたくさんの大御所の作品群があります。また、日本の画家では、宮沢賢治や東山魁夷などが有名です。

 心象風景とは、作者の心の中に思い描いた景色であり、体験及び感情や感覚によって生み出される想像上の風景です。つまり、あなたが描く自分自身の理想の風景であるといえますし、心の中で思い描くイメージやメッセージとも言い換えられます。

 あるいは、非日常感の強い・不思議で通常では得られない・通常の観念ではありえない風景ともいえる、創作した絵画作品ということができるのではないでしょうか。

 あなたも、あなた自身の思い描くイメージをさまざまな画像を組み合わせて、且、鉛筆画による白と黒(光と影)の劇的な組み合わせによる制作で心象風景を表現することができるのです。

参考:バリアート ショールーム シュピース・スタイル

Spies Style | スタイル一覧 | バリアートショールーム (balikaiga.com)

鉛筆画・デッサン入門:基本的な制作プロセス

鉛筆画・デッサンの準備:必要な道具と材料

 最初に、あなたが手始めにすることは、次のような順序です。また、できれば、あなたのリラックスできる静かな音楽の用意と、部屋の中は心地よい温度や湿度に設定しましょう。

構想の磨き方:鉛筆画・デッサンのアイデア出しテクニック

 まずは、あなたの身の回り・あるA4サイズの紙を用意して、それを正確に半分に切り、今回のあなたの作品のまずはメモ描き程度で自由に構想を練りましょう。

鉛筆画・デッサンの構想: 効果的なメモ描きの活用法

 エスキースが実際の制作画面よりも小さい時には、拡大していくことになりますので、そのことを考慮に入れて画面に向き合いましょう。多少の違いは本制作画面で修整するくらいの気持で取り組めば問題は少ないはずです。

効果的な鉛筆画・デッサンの構想の練り方

鉛筆画・デッサンの構成と狙いを明確にする方法

 今回の制作例では、主役のモチーフが夜の明けて間もない光景の「抜け」の中で、気持ちよさそうに成長していく「誕生の瞬間」を描きますが、同時に最低限の遠近法も用いて画面深度を深められるように制作します。

 そして、傾斜した地平線と斜めに配置した樹木によって、画面全体に動きを出し、その動きをセーブするための垂直の樹木と、マッチ棒の燃えカスを使った水平によって画面を鎮める工夫も取り入れます。

 また、主役の樹木の芽が明るい空間(抜け)の中で、全身に太陽の光を浴びて「外界に向かって展開し始めた状況」を描きながら、観てくださる人の視線を明るい外界へ誘導します。狙いとしては、「躍動する生命」の表現を目指します。

 尚、陽光にも淡くトーンを入れることで、主役のモチーフがより一層引き立つようにも心がけます。

鉛筆画・デッサンに必要な画面構成の要素

 そこで、その後何をするかといえば、以前からコピーで手元に置いてある、図書館で調達した幼児向けの絵本で「植物の発芽」という本から入手した画像を用意しました。

 また、画面上に登場させる、「ドングリ」と、画面一番手前の左下には、「マッチ棒の燃えカス」も用意します。

鉛筆画・デッサンのキャラクター設定:役割と重要性

 今回の制作例では、主役は「外界に向かって展開し始めている状況の植物の芽」です。そして、準主役は「太陽」及び「垂直として使う樹木」と「水平として使うマッチ棒の燃えカス」で、脇役は「ドングリ」や「斜めに傾いている樹木」です。

 この脇役の「ドングリ」は、生命の根源ではあるものの、まだ「誕生の瞬間」を迎えていない状態です。ある意味で、まどろんでいる生命ということもできます。

 一方、脇役の「ドングリ」と「斜めに傾いている樹木」には、目立たせないようにトーンを入れて、主役と準主役を引き立てることも意識します。

鉛筆画・デッサンの構図とモチーフの配置方法

 今回の筆者の制作例は、テーマの主体である構図に、①4分割構図基本線(主役モチーフの画面縦の4分割の一番下の線を基本に配置)②√3分割構図基本線(主役の画面左右の立ち位置)③(地平線を傾けると同時にその動きを垂直と水平で鎮める)

 今回の制作例には使っていませんが、「同じモチーフの形を変えた連続する動き」を描くことで、「リズム」を表現することもできます。

 例えば、地表が割れて植物の芽がわずかに顔を出した瞬間・地中から抜け切っていないながらもわずかに成長した状態・地中から完全に抜け出て双葉を広げようとしているようす、の3つの状態などによってもリズムは出せます。

 詳細は、次の記事を参照してみてください。

関連記事:鉛筆画を初心者が簡単に複合した構図で描く方法!(心象風景Ⅴ)

鉛筆画・デッサンの構図とモチーフの構成の考え方

 この構図とモチーフの配置を決める段階では、構図基本線上に、それぞれのモチーフを落とし込んで制作するということであり、各種構図基本線の配置に対して、何をどのように描いていくかということを考えることでもあります。

 あなたが、今回の記事を参考にして制作する場合でも、主役・準主役及び脇役や全体のレイアウトはどうするかを入念に考えて決めていきましょう。

 そして、あなたが私の制作例に使っていないモチーフで、同じような構図で制作しても何ら問題ありませんが、私の制作例をそのまま使うことは、著作権がありますのでできません。あしからずご承知おきください。

 尚、あなたが初心者で、趣味で終わらせるならば、ここまででよいでしょう。しかし、描くからには各種展覧会や公募展で入選まで狙いたいとお考になるのであれば、制作にあたって充分な検討を加えることが欠かせません。

 あなたが、主役・準主役及び脇役や全体のレイアウトはどうするかを決める際には、それ以前に、構想を練ることが重要であり、その大きなヒントは次の関連記事の中で見つかるはずです。

関連記事:鉛筆画・デッサンで差をつける:初心者から上級者までの制作構想の重要性とは?

初心者のための鉛筆画・デッサンの下絵(エスキース)の基本

 まず最初に、あなたの身の回りにあるA4サイズの紙を用意して、それを半分に切り、今回のあなたの作品の、まずはメモ描き程度で自由に構想を練りましょう。

 実際に測ってやフリーハンドでも良いのですが、構図基本線を入れます。もしも、きちんと測って構図基本線を入れるならば、その線はボールペンで引いておくと、そこへ鉛筆で描く場合には何度でも試行錯誤できます。

 最終的に、あなたの気に入ったモチーフをあなたの気に入ったレイアウトに据えて、あるいは作品によっては構図上の不足する部分に他のモチーフを加えて補うことにより、エスキースを完成させることができます。

 具体的には、次の画像のような基本線を引くことから始めます。

鉛筆画・デッサンのエスキースでの構図基本線の引き方

 まずはこのように、各種構図基本線を引きますが、具体的な分割点の割り出し方は順を追って記載していきます。

効果的な鉛筆画・デッサンのエスキースの作り方

 メモ描き程度の構想を練ることが終了しましたら、次はあなたが取り組む本制作に入る画面の縮尺をかけたエスキースの画面に、構図基本線を引きましょう。

 あなたが、本制作に入る画面の大きさをF10のスケッチブックのサイズで取り組むものとして、そのエスキースをA4の紙を正確に2つに切ったもので制作する場合には、次のようになります。

鉛筆画・デッサンのエスキースの効果的な画面利用法

 F10の長辺は528mm・短辺が454mmであり、あなたが手元に用意したエスキース(A4の紙を正確に2分割した物)は、その短辺のサイズは148mmなので、F10の短辺のサイズ454mmで割ると、0.3259という数値が出ます。

 そして、F10の長辺は528mmなので、この長さに上記の縮尺(0.3259)をかければ、172.07となりますので、あなたのエスキースの長辺を172mmにすれば、あなたが本制作に入るF10を正確に縮尺したエスキースの土台ができるということです。 

 これをわかりやすく説明するならば、F10の短辺をエスキースの短辺にあわせて縮尺値を求め、実際のF10の長辺を縮尺してエスキースの長辺の寸法を割り出すということです。

 この作業のメリットは、正確な縮尺をかけたエスキースで制作した下絵の寸法は、本制作するF10の画面上で、縮尺値の0.3259で割れば、主要なモチーフの正確な位置を特定できるということです。

鉛筆画・デッサンのエスキースに2等分割線と対角線を入れる

次に、上記画像のように、長辺短辺の2等分割線(③④)及び各対角線(①②)を引きます。

鉛筆画・デッサンでの「抜け」の活用方法

茶色線:制作例の「抜け」の範囲を表す線

 絵画の制作では、外界へ抜ける部分を意図的に作ることがあります。今回の制作例では、上記画像の茶色線で囲まれた部分です。

 この各種基本線は、2Bや3Bなどの柔らかい鉛筆の軽いタッチで、親指・人差し指・中指でつまむように持ち、優しく描き込みます。

 この時筆圧を強く描き込んでしまうと、のちの工程で練り消しゴムでは消しきれなかったり、跡が残ってしまうので、そのためには筆圧をかけ過ぎず優しく引くことが必要です。

「抜け」の効果:鉛筆画・デッサンにおける応用例

 画面上に「抜け」があることによる効果は、観てくださる人の息苦しさを解消できます。それは、意識がその「抜け」の先にある、外界のひらけた空間に向けられて、解放感を与えられるからです。

 この「抜け」とは、作品の中で意図的に窓などを作って、外界への「抜け」を作ることもできますし、その効果は、心象風景以外のどのジャンル(花・人物・静物・動物・風景)にでも応用できます。

鉛筆画・デッサンの画面レイアウト戦略

  • 黄色線:斜線2本と縦横の2分割線(①②③④)
  • 水色線:画面縦横の4分割構図基本線各2本(⑤③⑥⑦④⑧)(③と④は縦横の2分割線と重複)
  • 桃色線:画面横の√3分割構図基本線
  • 赤色線:画面縦の4分割線(⑧)とBDとの交点から左下へ若干傾斜をつけた新たな地平線
  • 青色線:観てくださる人の視線を誘導する線

 そして、画面縦の4分割構図基本線(⑧)に傾斜をつけた新たな地平線(⑨)へ、画面横の√3の位置に主役の植物の芽を配置します。

 また、画面右上の角Bには見えてはいませんが、太陽から差し込む陽光を暗示すると同時に、その陽光を体いっぱいに受けて、気持ちよさそうに、今まさに「誕生の瞬間」を迎えようとしている植物の芽を強調します。

画面制御のためのモチーフ選定

紫色線:楕円の枠内の樹木が垂直、楕円の枠内のマッチ棒の燃えカスが水平の配置によって画面を鎮める

 今回の制作例の中で、この楕円形の中の「垂直」や「マッチの燃えカスを使った水平」がなくなるとすれば、画面の動きを制御することができず、まとまりのない「落ち着かない不安定な作品」になってしまいます。

 逆に、水平と垂直だけで描かれた絵は、動きがなくて、単調な印象になってしまいます。そこで、上手にこれらを組み合わせることが必要になってきます。

 そして、傾けて動きを出した場合には、それだけで放っておかずに、その動きを鎮めたり抑制するポイントが必要になるということなのです。

鉛筆画・デッサンの中心点の重要性と扱い方

 今回の制作例の画面の寸法上の中心点は、主役にはかかっていないので問題ありません。

 しかし、絵画の制作上においては、意識的に中央へモチーフを配置する場合は別として、複数のモチーフで構成する画面には、できるだけ画面の寸法上の中心点を避けて制作しましょう。

 特に、画面の寸法上の中心点に、主役・準主役などのモチーフの中心点を重ねてしまうと、「動きが止まってしまう」ので注意が必要です。

 尚、意図的な制作例の人物画や動物画などで、画面にモチーフの面積を大きくとる必要があるときには、これらのことは該当しませんのでご安心ください。^^

エスキースと構図基本線の整合性の重要性

 今回の完成時のイメージは、観てくださる人の視線を画面左下の角Cから真ん中の主役のモチーフを通って、「抜け」の外の画面右上の陽光へとつながっていく導線を使います。

 制作例の場合では、画面左隅の左に傾いた樹木と垂直の樹木で、遠近感を必要最小限に表現しています。

 またこの左隅の樹木は左に傾いていますが、逆に右に傾けてしまうと、地平線との関係が直角に近づいてしまい、動きが弱くなってしまいます。

 地平線がわずかに左に傾いている状態で、その地表に立っている樹木が左に傾くことによって、観てくださる人には「より傾斜がついているように見える」と同時に、その奥の樹木の垂直の効果を増すことも同時に行っています。 

 また、これ以外の制作例によっては、このタイミングでそれ以外のモチーフの導入も検討し、各構図基本線との交わり方や、導線の導き方も同時に考えていくことになります。 

絵画を印象付ける小道具(モチーフ)の発見により鉛筆画・デッサンの魅力を向上

 尚、私たちの生活している周辺の地面を見回してみると、最近ではタバコを吸うためにマッチを使う人は少なくなりましたが、落ちていても不思議ではありません。

 画面上一番手前の左下角付近にあるのは「マッチ棒の燃えカス」ですが、意外なモチーフは発見できた人を楽しませることができます。しかし、人によっては、角材にしか見えないかもしれません。^^

 このようにモチーフを目立たないように描くことで、「何が描いてあるのかよくわからない」という部分も大切です。なんでもあからさまに描くことが必ずしも良いことではありません。

 観てくださる人が「ひょっとして〇〇では!」という感じが良いのです。このように、画面上の構図基本線という大きな力を持った線を、有効に使うことを心がけて制作します。

 つまり、各構図基本線を使って、できるだけモチーフの位置・高さ・幅、あるいはモチーフの中心点になるように考慮して画面構成を考えるということです。

 その際には、実際のモチーフの大きさでは高さが足りないとか・大きすぎるという場合には、「あなたの都合」で意図的に大きさをデフォルメして、使えるように修整するということです。幅についても同じことがいえます。

視線誘導:鉛筆画・デッサンを観てくださる人の視線を誘導

 全体のレイアウトをおこないながら、最終的な主役の画面上の輝き加減も考慮しますが、主役のモチーフを一層輝かせたい場合には、主役の周囲のトーンをさらに濃くするということになります。

 一方、画面の中の「抜け」の部分にも慎重にトーンを入れることで、画面全体のモチーフの中で主役の輝きを一番大きくして、主役を引き立てられます。

 次の作品の中の主役は、画面寸法上の中心点右手の植物の芽ですが、周囲へのトーンをしっかり加えることによって、主役を輝かせることもできるサンプルです。この制作例では、鑑賞者の視線を画面左下から右上に誘導しています。

国画会展 入選作品 誕生2001-Ⅱ F80 鉛筆画 中山眞治

鉛筆画・デッサン構成時の注意点

 ここで肝心なのは、すべてのモチーフの中で主役以外のモチーフを細密に描き込みすぎてしまうと、観てくださる人の注意をその部分に集中させてしまいます。そこで、主役以外のモチーフには注意が集中しすぎないように描き込むようにします。

 制作例であれば、画面左隅の樹木は、何となく樹木に見える程度でよいのです。遠近感を出し垂直を強調するための樹木も、何となくそれらしく見えればOKです。

 このように、細かく描き込みすぎないように注意しましょう。言ってみれば、意図的に手を抜くということです。

 これらのことを、A4の半分のメモ程度の紙に、「描いては消し描いては消し」を繰り返して、いかにして構図基本線を有効に使ったレイアウトや効果的な強調ができるかを考えて、エスキースを完成させます。

鉛筆画・デッサン本制作前のサイズ確認が必ず必要な理由

 スケッチブックのメーカーによっては、若干寸法が異なることがありますので、制作当初に実際のサイズを確認して正確な構図基本線を引きましょう。

 このことは、スケッチブック以外にも、例えばパネルに水張りした画面で制作する場合のF100や、それ以上の大きさの画面にも共通していえることです。

 あなたも制作を進める際には、実際に描き込む画面のサイズに合わせて構図基本線を正確に引きましょう。これは最も重要な点です。

鉛筆画・デッサン本制作における構図基本線の活用

それぞれの線についての説明は次の通りです。

黄色線:斜線2本と縦横の2分割線(①②③④)

水色線:画面縦横の4分割構図基本線各2本(⑤③⑥⑦④⑧)(③と④は縦横の2分割線と重複)

桃色線:画面横の√3分割構図基本線(⑩)

 √3分割構図基本線⑩を引く際には、既成のF10で制作を進める場合、筆者の使っているF10のスケッチブックの大きさは長辺が528mmで短辺は454mmです。尚、今回の制作例は、縦書きです。

 なので、短辺は454mm÷1.732=262mmになるので、262mmの位置が√3比率の分割点になります(⑩)。今回の制作例では画面横に1つしか使いませんが、この分割点は左右どちらからでも設定することができます。あるいは、画面縦にも√3分割構図基本線を2つ引くこともできます。

赤色線:4分割構図基本線の地平線(⑧)に角度をつけた新たな地平線(⑨)

 4分割構図基本線の地平線に角度をつけますが、急角度にしてしまうとその下で水平線を使うためのマッチ棒に接触してしまうので、そのマッチ棒に当たらない程度の角度にしましょう。

 制作例の場合は、BDと4分割構図基本線の交点の位置から左に傾けますが、この角度を分度器で測ったところ「4°」でした。また、角度がわずかな場合にはよくわからなくなってしまうので、ほど良い角度にしましょう。

青色線:観てくださる人の視線を誘導する線

 筆者は、いつも観てくださる人の導線をどのように導いたらよいか考えます。全体のレイアウトを考える際には、これらのこともよく考えましょう。そのためにも、構図基本線や導線を意識しましょう。

 手っ取り早いのは、「抜け」を作って、そこへ観てくださる人の視線を誘導することかもしれませんが、さまざまな手法がありますし、好みもありますので、あなたのご自身に合った導線の導き方を考えてください。

鉛筆画・デッサン本制作:構図とモチーフの整合

鉛筆画・デッサン本制作進行方法

 構図基本線上に、先ほど制作したエスキースに基づいてレイアウトします。実際に描き始める際には、まず全体を大づかみでとらえて描き進んでいきます。

 細かいことはさておいて、2Bや3Bなどの柔らかい鉛筆を親指・人差し指・中指でつまむように軽く持ち、全体を優しいタッチで描いていきましょう。

 そして、この段階では、今後あなたの制作作品によっては、必要ならば長め・短めの定規やコンパスもどんどん使いましょう。フリーハンドで直線や曲線を描くことは、制作を続けていく中でゆっくりと慣れていけばよいのです。

エスキースを基にした鉛筆画・デッサン本制作の配置

 絵画の制作では、主役がいかに主役らしく見えるかが一番重要なので、主役が目立つように周囲にトーンを入れていきましょう。

 また、観てくださる人の視線を画面左下から右上の空間へ導くためにも、陽の出からまだ間がないような、トーンを入れていきましょう。つまり、この太陽をぼんやりとしたトーンにすることで、主役の輝きを強調できます。

 陽光のぼんやりした日差しを表現するには、3H~4Hで太陽を描き、さらにその外周は2H→H→HBで描き進みます。

 この陽光を中心とする空のトーンの入れ方は一番時間がかかりますが、うまくいけば充分な満足感を得られるので気長に楽しんで進んでいきましょう。

鉛筆画・デッサン制作のノウハウ:異なる作品への応用

 作品の制作にあたっては、構図基本線を意識してレイアウトしますが、作品によって画面に納まりきれない部分は画面の外にハミ出てよいのです。あなたの描く画面には、あなたの必要とする部分だけを切り取って描きましょう。

 それは、モチーフ全体を無理に画面に収めようとすれば、窮屈になってしまうからです。逆に、画面からハミ出ることによって、画面の外への広がりが表現できることになります。

 尚、画面最下部の底線CD上にモチーフを「乗っけた」ようにレイアウトすることは、重大な禁じ手なのでこれも覚えておきましょう。

斜線の導線暗示とその重要性

 尚、画面左上の角Aからの斜線②は、画面左隅の斜めに傾いている樹木上部の角と枝の先端をかすめ通り、画面の中心点を通って、画面右下の角Dへ到達させます。

 一方、画面右上の角Bから出発した斜線①は、画面中心点を通って主役のフォルムの一部をかすめながら画面左下の角Cへ到達しています。

鉛筆画・デッサンにおける導線暗示の簡単な取り入れ方

 尚、あなたが作品を制作する際には、構図基本線や斜線が通っていることを画面上のレイアウトや、モチーフの凹凸なども含めて暗示しましょう。

 制作例では、陽光の中心点方向からの出発点を暗示したり、画面縦横の4分割構図基本線及び斜線②との交点を中心とする樹木の楕円形の繁みを作り、遠近感も表現するための「垂直にそびえる樹木」を強調し、同時に「マッチ棒の燃えカス」の水平も使うことで画面を鎮めています。

 このように、主役や準主役のレイアウト以外にも、画面全体のさまざまな要所のポイントを、例えば「水滴」・「枯葉の虫食い」・「モチーフの中心点(壁掛け時計等)」などでも導線暗示に活用することができます。

理想の鉛筆画・デッサン本制作画面を実現する方法

 尚、実際のモチーフの形状は画面構成上修整することもあります。これは、どの画家もほとんど行っていることで、デフォルメと呼ばれています。

 これらの構図基本線との重ね合わせは、構図の成り立ちを示すためでもあり、その暗示も含めて画面全体のバランスをとっているのです。

 デフォルメは、風景画の場合であれば実際の景色には電柱や電線があっても、作者の意図する一番見映えのする画面にするために省略してしまうこともあります。

 それは、現存する状態に修整を加える事であり、「省略」「削除」「修整」「変形」「強調」「つけたし」「拡大」「縮小」など何でもアリです。

鉛筆画・デッサン制作:構図とレイアウトの最終確認

 最初に描き込んだ、全体の輪郭を取った際のたくさんの線を練り消しゴムで整理しますが、こののちトーンを入れていくところにある線はそのままにしておきましょう。

 なぜならば、そこへはこれからトーンを入れていくので消す必要がないからです。そして、モチーフにかかっている線や「抜け」の中にある線は消しておきましょう。

 仕上げに向かって、明るい部分にするところにある無駄な線は目立ってしまうので、必ず消しておく必要があります。

 また、練り消しゴムで消したところは、その後トーンを入れていくと、消していないところと比較すると鉛筆の乗り具合が少しだけ違ってくることがあります。そこで、できるだけ練り消しゴムで消す部分を少なくすることが必要です。

鉛筆画仕上げのメリハリのつけ方

 練り消しゴムでたくさんの線を整理した後は、いよいよ各モチーフのレイアウト後の制作工程に入りますが、その際には一番暗いところからトーンを入れていきましょう。

 制作例の描き始めは地表ですが、画面一番手前から3Bから描き始めて、地平線に進むにしたがって、4B→5B→6Bとだんだん濃くしていきます。最終的に、地平線付近では様子を見ながら10Bまで使っています。

鉛筆画仕上げ:明暗の調整テクニック


         国画会展 入選作品 誕生2016-Ⅱ F130 中山眞治

鉛筆画で光る部分を強調する方法

 完成が近くなってきましたら、全体を観察してみて本来ハイライトであるべきところが、もう一つ明るくなくて、光っているように見えない場合には、その光っているべきところと隣接している部分や背景の黒さの度合いが足りていない場合があります。

 光をより光らしくする場合には、隣接する部分や背景をより濃い黒にすることで、まぶしく光っているべき部分を強調することができます。

 ところで、制作例で一番明るいところは、主役のモチーフの輪郭線部分です。つまり、一番明るいところは画面の紙の色ということです。

絵画鑑賞のススメ:インスピレーションを得るために

絵画鑑賞におすすめの公募展

 ところで、たまには絵を観に行きませんか。筆者の印象では、日展は「きれいなだけで個性的で野心的な作品は少ない」記憶しかありません。

 おすすめは第一に国画会の展覧会である「国展(4月末~5月中旬)」、次いで独立美術協会の展覧会である「独立展(10月)」や、新制作協会の展覧会である「新制作展(9月下旬~10月上旬)」です。

 展覧会(全国公募展等)へ行きましたら、細かな技法ばかりを見るのではなくて、作品から受けるあなたの印象が重要です。

 最初の内はよくわからなくても、あなたが強く惹かれた・感性に響いた作品の印象をあなたの作品にどう反映できるかを考えるのです。

絵画鑑賞のコツ:大きな要素の捉え方

 私は恥ずかしながら、抽象画がいまだによくわかりませんが、印象に残る具象画を見て帰ってくると、その印象を自分の作品に、どのように取り込むことができるかを考えるようにしています。

 しかし、そっくりまねることはやめましょう。著作権がありますし、意味もありません。

 細かいところまでを全部取り込もうとするのではなく、構図などの大きな成り立ち及び配置や濃淡のつけ方、画面の持っている「新たな着想」などを取り込むようにするということです。

 もっと具体的に言えば、構図やデッサンは当然一番重要ではあり充分観察が必要ですが、あなたの感性に響いた作品の4隅(4つの角の周辺処理)は、どのように充実させているかということを研究することはとても重要です。

 つまり、絵画は大きな景色の中の一部分にすぎないので、その絵画の4隅の各外側への視線の誘導なり、意識が向かうような仕掛けをどのように施しているかを観察するということなのです。

 それは、それぞれの角に視線が及ぶような仕掛けをしていることに気づくことです。その意識をもって、展覧会などで鑑賞してみてください。あなたの制作に対する新たな視点を開拓できます。

参考情報

国展:第98回国展(2024年) 出品要項 出品票請求フォーム | 国展 (kokuten.com)

独立展:独立展 (dokuritsuten.com)

新制作展:新制作協会 (shinseisaku.net)

まとめ

 心象風景を描く旅は、単なる絵画技術の習得を超え、内なる世界と外の風景を繋ぐ芸術的な冒険です。

 この記事では、鉛筆画とデッサンの基礎から応用まで、豊富な情報を提供し、初心者でも上級者でもステップバイステップで技術を高めることができます。

 エスキースの基本から始まり、構想の練り方、画面構成、構図の選定、そして本制作に至るまでのプロセスを詳細に解説しています。

 さらに、鉛筆画やデッサンを観てくださる人の心に、深い印象を残すための「抜け」の技術や、光と影の扱い方など、細かいテクニックも学べます。

 このマニュアルを通じて、あなたの心に映る風景をスケッチブックや紙上に表現することで、自己表現の幅を広げ、観てくださる人に感動を与えられる作品を創出することも可能です。

 また、絵画鑑賞の章では、他のアーティストの作品からインスピレーション(ひらめき)を得る方法も紹介しています。心象風景を描くことは、技術だけでなく、心の豊かさも育む制作活動でもあります。

 これらの一連の、「没頭できる充実した時間」によって生み出される作品は、あなた自身の自己達成感につながります。描くから上達する、上達するからさらに「嬉々として没頭できる」へと「連続的な成功体験」へとつながります。

 また、各種展覧会や公募展への出品や、大きな自分自身の区切りとなる「個展の開催」へと続いていければ、自然とプロ画家になることもできます。

 そこまで到達できれば、鉛筆画やデッサンは趣味を超えて、あなたの生活の「大きな核(生き甲斐)」となり、展覧会や公募展で知り合った仲間も増え、老後に何をしたらよいか「まごつく人々」をよそ目に、あなたに充実した日々を約束してくれます。

 尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。

 それは、あなたの制作する画面全体を使い切って、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事も参照してください。

関連記事:鉛筆画・デッサンの魅力を最大限に引き出す!構図導入の必要性と方法とは?

 ではまた!あなたの未来を応援しています。

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