どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
さて、風景画の魅力、それは静寂な自然や都市の喧騒を、鉛筆だけで表現する技法にあります。 鉛筆画・デッサンで風景を描く際、初心者から上級者までが直面する課題や疑問を、本ガイドがしっかりサポートします。
遠近法を使った奥行きの表現、細部までの緻密な描写、そして光と影のドラマチックで劇的な演出。これらの要素をマスターすることで、あなたの作品は一段と深みを増し、観てくださる人の心を捉える力を持つようになります。
この記事では、実際の描写テクニックを基本から応用まで網羅していますので、あなたも風景デッサンの世界へ、一緒に足を踏み入れてみませんか?
それでは、早速見ていきましょう!
基本設計の立て方:風景デッサンの始め方と基本的な構図
風景デッサンは、大自然の美しさや都市の活気を捉える最も古典的な芸術形式の一つです。しかし、これをマスターするには、基本的な構図の理解と適切な基本設計の立て方が不可欠です。
以下では、風景デッサンの初歩から始めるための手順と、効果的な構図を作成するためのヒントを紹介します。
尚、構図については難しく考える必要はありませんし、詳細な説明をしている記事も、この記事の最後の部分に掲載していますので参照してください。
観察の重要性:自然の中での学び
風景デッサンの第一歩は、対象となる風景をじっくりと観察することです。
自然の中で時間を過ごし、光の変化、植物の特徴、建物、あるいは山々の形状、畑や田の広がり、川や湖の展開、などの詳細を吸収することで、よりリアルなデッサンを描くための土台を築けます。
シンプルなスケッチからスタート
初めてのデッサンでは、細かい部分に捉われず、あなたの描こうとしている画面の中の、大まかな輪郭のラインを描くことから始めます。これにより、全体のバランスや構図の骨格を把握することができます。
3分割法を活用した構図の基本
風景を効果的に描写するための古典的な方法として、3分割法があります。画面を縦横に3等分し、重要な要素や焦点となる部分をこれらの交差点に配置することで、バランスのとれた構図を作り上げることができます。
尚、初心者の人は、描き始めの段階では、当初は構図を意識せず10作品ほど描いて、ある程度描くことに慣れてから、この構図の取り込みを検討しましょう。
なぜかというと、最初から構図を意識してしまうと「手が止まってしまう」こともあり、挫折にもつながってしまうからです。
関連記事:鉛筆画で初心者が簡単に構図を取り込む方法とは!(3分割と3角)
奥行きを感じさせる遠近法の基礎
風景に奥行きを持たせるためには、遠近法の理解が欠かせません。
近景、中景、遠景の三層を意識し、それぞれの要素のサイズや配置を調整することで、立体的な空間感を表現することができます。詳細は、この先で述べる1点透視法や2点透視法の部分を参照してください。
修正と練習の重要性
ところで、完璧なデッサンを一回で描くのは難しいですが、繰り返し練習することで、自分自身のスタイルや技術を向上させることができます。
また、過去のデッサンを振り返り、修正点や改善点を見つけることで、さらなる成長を促進することができます。これらの基本的な手順とヒントを参考にして、風景デッサンの技術を磨き上げてください。
細部の魔法:樹木、道路、建物の詳細な描写テクニック
坂のある風景Ⅰ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
風景デッサンにおいて、一つ一つの細部が全体の作品を豊かにします。特に樹木、道路、建物は風景の主要な要素となるため、これらの細部の描写には特別な注意が必要です。
以下では、これらの要素をリアルに、そして魅力的に表現するためのテクニックを解説します。
樹木の生命感:葉っぱの質感と構造
作品の制作時に、すべてのモチーフを克明に描き込むことは焦点ボケにつながることがあります
樹木を描写する際の鍵は、それぞれの樹種の特徴を捉えることがポイントです。
葉の形や配置、枝のカーブや太さに注意を払いながら描くことで、樹木の生命感を強調できます。また、光の当たり方や風の影響も考慮に入れて、動きや質感を表現しましょう。
尚、あなたの制作する作品では、全部のモチーフを克明に描き込むことが決して良いわけではありません。それは「写真の仕事」です。
作品の中では、あなたの一番言いたいことをハッキリさせましょう
我々の鉛筆画・デッサンの制作においては、強調したい主役や準主役が目立つように、それ以外には、ある意味手を抜くことも必要になります。
主役が主役らしく見えて、あなたが強調したいテーマをいかに表現するかが一番重要なのです。例えば、あなたが強調したいのが樹木であれば、樹木を克明に細密に描き込むことが大切です。
しかし、例えば前掲の作品の場合では、カーブして登っている道と登り切ったところで交差している道路部分を強調したいので、その手前にある樹木は、そこに何となく樹木があるというくらいにしか描き込んでいません。
その理由は、仮にこの作品で樹木をもっと細密に描き込んだとすると、見てくださる人の視線をその部分に引きつけてしまうのです。つまり、本来注目してもらうべき強調点が焦点ボケしてしまうので、意図的に手を抜いているのです。
このように、あなたの作品の中でも「言いたいこと・主張したいこと・見てほしい部分を強調する」ために、主役・準主役以外の部分には意図的に手を抜きましょう。
道路の奥行き:視点と質感のバランス
坂のある風景Ⅱ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
道路の描写は、風景に奥行きをもたらす重要な要素です。視点や遠近法を意識しつつ、アスファルトの質感を詳細に表現することで、道の続く先の風景へと視線を導くこともできます。
この、道路を作品に描く場合には、面倒でも電柱や家屋の連坦する風景に遠近法を導入しましょう。
そうです。電柱や家屋は、手前から奥に従って小さくなり、間隔が狭くなっていきます。それを表現できれば奥行きが得られるのです。
建物のリアリティ:形状と材質の差異
あなたの制作したい作品に仕上げるための思い切った省略もアリです
建物はその形状や材質、歴史性によって多様な表情を持っています。例えば、古びた木造の家とモダンなガラスのビルでは、描写するテクニックが大きく異なります。
窓やドア、屋根の形状に注意を払いつつ、建物の特性を強調することで、リアルな風景デッサンを完成させましょう。
そして、この描き込みの際に、邪魔で複雑なモチーフなどは省略しても良いのです。場合によっては、電柱や電線も省略しても問題ありません。
デフォルメは必ずあなたの制作に使いましょう
このように、あなたの制作に邪魔な部分や、作品の中に入れたくない部分などは省略しても良いのです。
これは、「デフォルメ」とよばれる絵画の制作技法で、省略の他にも、簡略化・削除・つけたし・変形・修整など、何でもありです。
つまり、あなたがその風景の中で、一番引き立つと思える内容で制作して仕上げるということです。
陰影の活用:物の位置と時間の表現
物の位置や時間帯を表現するための強力な技法として、陰影の描写が挙げられます。太陽の位置や光の角度によって変わる影の長さや形状により、作品に季節感及び時間の流れや深みを加えることができます。
それは、真上から当たる太陽光を持ってきて、夏を表現することもできますし、かなり下からの太陽を持ってきて、晩秋を表現するという使い方もあります。長い影を引いている人影や建物の影を使えば、それらしく見えます。
この件では、前掲の「坂のある風景」の作品の電柱の影から、この作品の制作時期が「晩秋」であることが推察できます。
細部へのこだわりで作品を際立たせる
風景デッサンの魅力は、細部に宿るリアリティと感動です。それぞれの要素に真摯に向き合い、緻密な観察と練習を重ねることで、一つ一つの細部が作品全体を豊かにしてくれることでしょう。
細部の魔法を掴むことで、風景デッサンが新しい次元に到達します。しかし、繰り返しになりますが、絵画の制作では、あなたの強調したい主役・準主役のモチーフには特に細密な描写を施しましょう。
それ以外のモチーフには意図的に手を抜きましょう。本章のタイトルの意味は、あくまでも主役・準主役への描写の内容であると理解してください。
光と影の演出:日中から夜景までの照明と影の描き方
第1回個展出品作品 夜の屋根 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
第1回個展出品作品 サン=ドニ運河 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
風景デッサンにおいて、光と影のバランスは非常に重要です。日の明るさや夜の暗闇によって、物や風景の見え方は大きく変わります。
本章では、日中から夜景までの異なる照明条件下での光と影の描き方を深掘りします。
日中の直射日光:明瞭な影の形成
日中の強い太陽光は、鮮明な影を形成します。この時期の影は、物体の形状や位置によって鮮明に定義されることが多いです。
影の端をはっきりと描写することで、日中の直射日光をリアルに表現することができます。
薄暮の柔らかな光:滑らかなグラデーション
夕方や曇りの日は、光が柔らかく、影も同様に滑らかになります。このような状況では、影の境界がはっきりとせず、階調(グラデーション)を用いて滑らかに表現する必要があります。
夜の人工照明:強弱のコントラスト
第1回個展出品作品 ノートルダム寺院 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
夜の風景は、人工照明によって魅力的な光と影のコントラストが生まれます。
ランプやネオンライトから放たれる明るさと、それに続く深い影は、鮮やかなコントラストを描写するチャンスとなります。
月明かりのロマン:青白い輝きと長い影
月明かりの下での風景は、神秘的な美しさを持っています。月の青白い輝きは、地上の物体を独特の色合いで照らし出し、長くて柔らかい影を作り出します。
この独特の雰囲気を捉えるためには、トーンの意味や影の長さに注意を払う必要があります。
光源の位置と角度:影の方向と長さの変化
光の方向や角度は、影の長さや方向を大きく変える要因です。太陽や照明の位置を正確に把握することで、影の方向や形状を適切に描写することが可能になります。
光と影の演出は、風景デッサンの魅力を大きく引き立てる要素です。異なる照明条件下での描写テクニックを磨き上げることで、作品に深みとリアリティをもたらすことができるでしょう。
水の描写マスター:質感から動き、反射までのテクニック
水はその流動性と反射の特性により、デッサンにおいても非常に魅力的な題材となっています。
水の描写は、静止した水面から荒れ狂う海、輝く水滴まで多岐にわたります。以下では、水の質感、動き、反射を巧みに描写するためのテクニックを紹介します。
水面の質感:平滑から波立つ表面まで
水面の質感は、静かな池から、波立つ海までさまざまです。平滑な水面は光の反射を強く、波立つ水面は形状や影の変化が複雑になります。
その特性を捉え、鉛筆の筆圧やストロークの方向を変えることで、リアルな水面を表現しましょう。
水の動き:流れと波の描写
水の動きを表現するには、流れの方向や波の高さ、形状に注意を払う必要があります。細かな波や渦を細密に描くことで、水の流れや波打ち際のリアルな動きを捉えることができます。
反射の魔法:水面に映る景色と光
第1回個展出品作品 昼下がりの桟橋 1996 F10 鉛筆画 中山眞治
水面は、周りの風景や天体、光を反射する鏡のような存在です。反射する物体の形や色、光の方向に応じて、その反射の描写を調整することで、深みとリアル感を増加させることができます。
水滴と霧:透明感と輝きの再現
水滴(キッチンにて)Ⅰ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
水滴(キッチンにて)Ⅱ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
水滴(キッチンにて)Ⅲ 2019 F1 鉛筆画 中山眞治
水滴(キッチンにて)ⅳ 2021 F1 鉛筆画 中山眞治
水滴や霧は、その透明感と輝きで風景に独特の雰囲気をもたらします。輝く水滴の中心部と、その周りの透明感をバランスよく描写することで、魅力的な水滴や霧を表現することができます。
国画会展入選作品 誕生 2008-Ⅱ F130 鉛筆画 中山眞治
水中の世界:透明度と色の変化
水中は、水の透明度や光の屈折により、独特の色合いや形状の変化が生まれます。水中の物体や魚を描く際は、これらの特性を考慮して、色や形の変化を表現しましょう。
水の描写は、その多様性と美しさからデッサンの中で欠かせない要素となっています。これらのテクニックを駆使して、水の魅力を最大限に引き出し、作品に命を吹き込むことができるでしょう。
風景画における遠近法の活用:奥行きと空間感の表現
風景画において、観てくださる人に深い感動や臨場感を提供する要素の一つが、奥行きや空間感です。これらの要素を効果的に描くための技法として、遠近法があります。
遠近法は、2次元のスケッチブックや紙上に3次元の空間を再現する強力な技法として利用されています。以下では、風景画での遠近法の基本的な活用方法を解説します。
基本の一点透視法:単一の消失点を中心に
一点透視法は遠近法の基本中の基本です。画面の中心に設定された一つの消失点を基準に、全ての直線がこの点に向かって集まるように描かれます。この方法は、鉄道の線路や直線的な道路を描く際に特に有効です。
一点透視法の活用
風景を描く際、遠近感を表現するための一つの方法として一点透視法があります。このテクニックを使用することで、風景に奥行き感を持たせ、立体的な描写を可能にします。
まず、水平線上に一点(透視点)を置き、その点を基準に物体や建物のラインを引いていきましょう。
出典:アミューズメントメディア総合学院
【キャラクターと一緒に背景も描けるようになろう!】第三回◇一点透視図法を学ぼう! – キャラクターデザイン学科 (amgakuin.co.jp)
多様な視点の二点透視法(前掲の画像を参照してください)
二点透視法は、画面の両端に消失点が2つ存在する方法です。このテクニックは、都市のビル群や角を曲がる道路など、角度の変わる対象の奥行きを表現するのに適しています。
天と地の関係:地平線の位置決め
地平線は遠近法において非常に重要な役割を果たします。その位置によって、視点が高い場所からの眺めであるのか、低い場所からの眺めであるのかが決まります。
適切な地平線の位置で、視点や風景のスケール感を正確に伝えることができます。
二重写しの技法:物体の前後関係
対象が他のものを部分的に覆い隠すことで、その前後関係や奥行きを示すことができます。例えば、樹が建物の一部を隠すことで、樹が前に、建物が後ろにあることが視覚的に理解できます。
濃淡と大きさで奥行きを表現
国展会展入選作品 会友賞 誕生 2013-1 F130 鉛筆画 中山眞治
遠くの物体は、色が薄く、大きさも小さく描かれる傾向があります。この特性を活用することで、遠近感を効果的に表現することができます。
遠近法は、風景画における奥行きや空間感を表現するための強力なツールです。これらのテクニックを理解し、適切に活用することで、作品に深みとリアリティをもたらすことができるでしょう。
まとめ(風景画の魅力を最大化するデッサンテクニックの集大成)
風景画は、自然の美しさや都市の活気をスケッチブックや紙上に再現する魔法のようなアートです。その魔法を実現するための技術や知識は多岐にわたり、アーティストはそれを学びながら独自のスタイルを追求しています。
この記事では、風景画を次のレベルに引き上げるためのデッサンテクニックを紹介してきました。そして、遠近法の活用は、2次元の平面上で3次元の奥行きや空間感を描写するための基本的な手法となっています。
一点透視法から二点透視法、地平線の位置決め、対象の二重写しや色の遠近感の使用など、これらのテクニックは風景画の奥行きを鮮明にするための鍵です。
また、具体的なモチーフや風景の一部を描写するテクニックも重要です。細部の表現の技法を知ることで、樹木や道路、建物の細密な描写が可能となり、作品全体のリアリティが向上します。
光と影の演出を学ぶことで、日中の明るい景色から夜景までのさまざまな光の状況を美しく描写することができます。
水の描写は、風景画における重要な要素の一つです。静かな池や荒れ狂う海、輝く水滴や深い海の中の世界、それらの質感や反射を巧みに表現することで、作品に深みとリアル感を加えることができます。
デッサンテクニックは、風景画の質や表現力を向上させるための重要な道具ですが、最終的にはアーティスト自身の感受性や独自の視点が最も大切です。
これらのテクニックを習得することで、感受性や視点をより鮮明に、より深く表現することができるようになります。
この記事を通じて、風景画の新しい可能性やデッサンの魅力を再発見できることを願っています。習得したテクニックを活用し、あなただけの風景画を描くことで、アートの世界に新しい風を吹き込んでください。
尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。
それは、あなたの制作する画面全体を使って、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。
関連記事:鉛筆画・デッサンの魅力を最大限に引き出す!構図導入の必要性と方法とは?
ではまた!あなたの未来を応援しています。
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