どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。
さて、鉛筆画やデッサンは、アーティストの基本的な技術を鍛える素晴らしい手段です。特に、静物を題材にしたデッサンは、物の形状や質感、明暗などの基本を学ぶのに最適です。
この記事では、初心者でも簡単に取り組める鉛筆画・デッサンの基本技術や、さまざまなアイテムの描き方を分かりやすく紹介します。
魚介類から家具、金属質のアイテムまで、具体的なアイテムごとのポイントなどについても参考例をお伝えしていきます。
あなたもこの記事を元にして、鉛筆画・デッサンの魅力に触れ、ご自身の作品を次のレベルへと引き上げてみませんか?初めての方も、これまでの経験をさらに深めたい方も、この記事が役立つ内容となっています。
それでは、早速見ていきましょう!
鉛筆画・デッサンの基本理念:なぜ静物から学ぶのか?
デッサンは、アーティストの技術や視覚的な認識を磨くための基盤となる練習方法です。
中でも静物デッサンは、初心者にとって最も活用しやすい題目として多くの指導者や学校で取り入れられています。では、なぜ静物がデッサン学習の入門として推奨されるのでしょうか。
安定したモデル
静物は動かないため、長時間の観察や描写を続けることが可能です。これにより、形や質感、影の描写に専念することができて、基本的な技術をじっくりと磨くことができます。
複雑さの調整が容易
初心者はシンプルな物から始め、徐々に複雑な物へと挑戦することで、スキルを段階的に向上させることができます。
例えば、まずは卵やリンゴといったシンプルな形状の物を描き、次第に複雑な部分を持つ物へと進むのがよいでしょう。
最初から複雑な形状のモチーフや、複雑な模様のあるモチーフを描かないようにしましょう。これは、挫折しないための極めて重要なアドバイスです。
質感や材質の多様性
静物デッサンでは、さまざまな材質や質感を学ぶことができます。金属、ガラス、布、木など、異なる質感の物を描くことで、表現技術の幅を広げることができます。
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 石原崇氏
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 大寺聡氏
観察力の養成
静物を描く際には、細部まで注意深く観察することが求められます。この観察のプロセスを通じて、物の形や構造、光の当たり方などを深く理解することができて、それが他の描写技術や題材へのアプローチにも役立ちます。
総括すると、静物デッサンは基本技術の養成から観察力の向上、多様な材質の理解まで、デッサンの基盤を築く上で欠かせないものなのです。
鉛筆の選び方と基本的な使い方
鉛筆はデッサンやスケッチの世界で最も基本的なツールの一つです。
しかし、鉛筆には多様な種類があり、その特性や使い方を知ることで、より質の高い作品を生み出すことができます。この項では、鉛筆の選び方から基本的な使い方までを解説します。
鉛筆の硬さの種類
鉛筆の硬さは、描写の特性や質感を大きく左右します。一般的には「H」が硬め、「B」が柔らかめを示します。
Hシリーズは詳細なラインや細かい部分の描写に適しており、Bシリーズは影や滑らかな階調(グラデーション)の描写に向いています。
初心者におすすめの鉛筆
鉛筆画・デッサン初心者には、中間的な硬さの鉛筆がおすすめです。特に、HB~2Bの鉛筆は多目的に使用でき、初めてのデッサンにも適しています。これらの鉛筆で基本を掴んだ後、硬さやブランドを変えてみるのも一つの方法です。
まず最初に、揃えるとすれば、2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの7本があれば充分でしょう。メーカーは、ステッドラー・ファーバーカステル・三菱ユニ・トンボなどいろいろありますが、どこの画材屋さんでも買えるステッドラーから揃えてみてはいかがでしょうか。
あなたが、鉛筆画・デッサンを続けていく気持ちが固まった時点で、それ以外の幅の鉛筆を少しづつ揃えていけばよいでしょう。因みに筆者は、10H~10Bまでの21本の鉛筆を使っていますが、ステッドラーがメイン(9H~8H)です。
ステッドラーの描き味は、「カリカリ」した描き味で、ファーバーカステルや三菱ユニは、「しっとりした」描き味です。私はファーバーカステルでは、ステッドラーと合わせて2B~8Bまで、三菱ユニは10H・3B・4B・10Bを使っています。
鉛筆の適切な持ち方
鉛筆の持ち方は、描写の精度や筆圧のコントロールに影響を与えます。人指し指・中指・親指でつまむ「画家の持ち方」と、文字を書くときの握り方の2種類が一般的です。前者は自由なストロークや大胆な描写に適しています。
全体の輪郭を掴む際には、このように「画家の持ち方」によって、解放された優しいイメージで全体を幾通りもの楽な持ち方で、解放感とリラックスを持って全体を描いていきましょう。
その中に、色々描いていく中で、やがて、これだと思える線が見当たるはずです。そうやって全体の大雑把な線がたくさん描き込まれた画面が生まれますが、ここでいったん休憩を入れて、改めてデッサンに向き合い、正しく描き込まれているか確認する作業が必要です。
よく確認しないまま描き進んでしまうと、「つじつまの合わない」局面に直面してしまうことがあります。人物画で例えるならば、顔が大きすぎる・首が長すぎる・両手両足が短いなどのような状態です。静物デッサンでも同じことが言えます、対象をよく観察して、下描きを仕上げましょう。
たくさんの輪郭線に包まれたデッサンに対する次の作業は、「練り消しゴム」を練って、先端部分を「マイナスドライバー」のような形状にして、輪郭線を整理しましょう。
そして、次の具体的な描き込みを行う際には、鉛筆の持ち方を文字を描く際の握り方へ変更して、全体的な細部への描き込みへと進んでいきましょう。
筆圧の調整と技術の基本
筆圧を変えることで、ラインの太さや濃淡を表現することができます。Bシリーズの柔らかい鉛筆で強く描くと濃い線が、Hシリーズで軽く描くと淡い線が描けます。また、鉛筆を倒して側面を使い広い範囲に陰影画法を施す技術もあります。
鉛筆の選び方や持ち方、筆圧の調整などは、デッサンの基本となる要素です。これらを理解し、実際に手を動かしながら感覚を磨いていくことで、自分だけの描写スタイルを築き上げることができます。
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静物デッサンの基本技術
出典画像:アートラボゼロプラスより引用
静物デッサンは、アートの世界での基礎を築くための重要な第一歩です。この分野では、物の形状、質感、明暗などの要素を捉えるためのテクニックが求められます。
以下では、静物デッサンにおける基本的な技術を探求し、その熟達の道を紹介します。
形状を捉える(基本的な技術)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
モチーフの形状を捉える最初のステップは、シンプルな形で物を表現することです。例えば、リンゴは円、瓶は筒として捉えることができます。物の大まかな形状をシンプルな形で捉えることで、正確な描写の基礎が築けます。
明暗の理解(光と影)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
明暗はデッサンにおける重要な要素の一つです。モチーフの形や質感を表現するためには、明るい部分と暗い部分の境界をしっかりと捉えることが必要です。
質感を描写する(細部への注意)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
静物の質感、例えば木のざらつきやガラスの滑らかさ、布の柔らかさを表現するには、細部に注意を払うことが不可欠です。筆圧を変えたり、鉛筆の持ち方を変えることで、異なる質感を再現することができます。
尚、ビンなどを描く際には、反射している部分とは正反対に、「濃い色の線」が走っていることに注意を向けることが重要です。
また、金属の場合にも、濃い色の部分があるので、その濃い色の部分を正確にとらえて、画面に描き込むことで、リアルな表現ができます。
第2回個展出品作品 モアイのある静物 F50 1999 中山眞治
三次元的な深みの表現
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
立体感を出すためには、透視法や遠近感を理解することが重要です。前景と背景の関係性に遠近法を取り入れたり、モチーフのサイズと位置の関係を正確に捉える(モチーフの前後関係)ことで、画面上での三次元的な深みを表現することができます。
静物デッサンのテクニックは、基本的なものから高度なものまで幅広く存在します。これらの基本をしっかりと習得し、日常の練習に取り入れることで、あなたのデッサンスキルは飛躍的に向上するでしょう。
多様な素材を活用した描写のポイント
出典画像:アートラボゼロプラスより引用
モノトーンの画材は、その独特の深みと表現力で多くのアーティストから愛されています。色の要素が排除されることで、形や質感、明暗のコントラストに集中できるのがモノトーンの魅力であり、「色でごまかすことのできない」正味の実力が問われる技術ともいえます。
この項では、モノトーンのデッサンにおいて、主要な画材とその描写のポイントに焦点を当てていきます。また。これらの素材を複数用いて制作することもできますが、木炭やインクは色が特に濃いだけに、扱い方には充分な注意が必要です。
鉛筆の魅力
鉛筆は、明るいグレーから深い黒までの幅広い濃淡を持っており、滑らかな質感を生み出します。細部の描写や繊細な陰影を描く際に最適です。滑らかな質感では、下の画像の花瓶部分を参照してください。
描写のポイントは、硬さの異なる複数の鉛筆を使い分けることです。例えば、Hシリーズは細かい線や薄い影に、Bシリーズは強いコントラストや濃い影に使用します。
静物 1996 F10 中山眞治
木炭(チャコール)の力強さ
木炭は、独特の荒々しさと深い黒さが特徴です。大胆に、大きく腕を振るって筆を動かすような運動感のある行為(ストローク)や強い明暗の差(コントラスト)を求める場合に非常に効果的です。
描写のポイントは、その独特の質感を生かすことです。粗い画面に描くことで、チャコールの質感が最大限に引き出されます。
炭筆の細密な表現
炭筆は、細かな粒子が特徴で、滑らかなグラデーションや細部を表現するのに適しています。木炭(チャコール)とは異なり、より繊細な作品を作成する際に活躍します。
描写のポイントは、細やかなタッチ。炭筆の柔らかさを利用して、滑らかな陰影や微妙な質感を表現します。
インク(鮮明なコントラスト)
インクは、その濃密な黒と鮮明なコントラストが魅力的です。筆やペンの種類を変えることで、ラインの太さや質感を変化させることができます。
特に、濃淡や流れるような動きを活用することで、独特のリズム感を描写に取り入れることができます。モノトーンの画材は、その特性を理解し、適切に使いこなすことで、深みのあるデッサンを生み出すことができます。
鉛筆、木炭、炭筆、インク、それぞれが持つ魅力を最大限に活用し、自らの表現力を向上させましょう。これらの画材を通じて、アートの無限の可能性を追求する旅が、あなたを待っています。
実践!静物デッサンの講座
出典画像:アートラボゼロプラスより引用
デッサンの技術を身につけるためには、実際の描写経験が不可欠です。
この項では、具体的なステップとテクニックを紹介しながら、静物デッサンの実際のプロセスを体験します。初心者から上級者まで、実践を通じてデッサンのスキルを向上させましょう。
ステップ1(適切な静物の選択)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
成功するデッサンの秘訣の一つは、描きたい対象の選択です。初心者はシンプルな形状の物、例えば、果物(リンゴ・レモン・洋ナシ・バナナなど)・野菜(ピーマン・ニンジン・ジャガイモ・タマネギなど)・瓶・缶・調理器具・カップ&ソーサーなどを選びましょう。
あるいは、絵画教室にある石膏の各種モチーフを使いましょう。円柱・球体・円錐・三角錐・立方体などさまざまなものの中から、あなたが描きたいと思えるモチーフを選んで描き始めることが重要です。
この石膏のモチーフで描き始めることは、陰影の的確な観察と描写を可能にしますので、光と影の学習にはうってつけです。これにより、形状や明暗を理解する基礎が理解できるようになれます。
第2回個展出品作品 洋ナシのある静物 F1 2000 中山眞治
ステップ2(基本的な輪郭の描写)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
始めに、モチーフの大まかな輪郭を「画家の持ち方」で軽く描きます。この段階では、詳細は気にせず、モチーフの位置関係や大きさ・割合・比率を正確に捉えることを意識しましょう。
ステップ3(明暗と質感の追加)
出典画像:東京武蔵野美術学院・監修 鉛筆デッサン 高沢哲明氏
光源の位置を意識して、静物の明るい部分と暗い部分を描きます。次に、物の質感を表現するためのテクニックを用いて、リアルな質感を追求します。例えば、リンゴの表面の光沢や布のしわなどを表現します。
描き始めはどこから描けばよいのか迷うという人は多いものですが、簡単なことです。あなたが描こうとしている画面の中の一番濃い色のところから描き始めましょう。その次の描く場所は、二番目に濃い色のところといった具合に、だんだん明るいところへと描き込んでいきましょう。
これは、明るいところから描き始めると、最後の一番濃い色を描く時点で、「もっと濃い色はないか」となってしまうので、あなたが持っている一番濃い色では足りなくなってくるからであり、全体の明暗のコントロールが難しくなってしまうからです。
ステップ4(暫定的な完了から修整へ)
蕨市教育委員会教育長賞 灯の点る静物 1999 F30 中山眞治
全体のバランスを見ながら、細部の修整やアクセントの追加を行います。ここで、細かな影の追加や線の強調など、作品を完成させる最終的なタッチを加えます。
なので、前述のように、描き始めは一番濃い色から描き始めて、全体の描き込みが終了して、これから仕上げに入るという時点では、それまで一番濃い色であったところをもう一段濃い色にしながら、一番明るいところ(ハイライト部分)には、練り消しゴムで丹念に拭き取る作業に入ります。
この作業によっては、背景の色合いが濃ければ濃いほど、ハイライト部分が「光って」見えるようにもなりますので、この効果を実感できた人は「思ってもみなかった効果」を満喫できます。「白い」のではなく、「光って見える」喜びを感じられるからです。
静物デッサンは、観察力や表現力を養う絶好の機会です。この記事を通じて、デッサンの基本から応用までのテクニックを習得し、あなたのアートスキルを一段階引き上げましょう。
まとめ
デッサンは、アートの基本としての役割を果たしてきました。観察力、手の動き、そして描写力を養うための最も基本的な訓練の一つと言えるでしょう。
特に、静物デッサンはその中でも初心者から上級者までが実践的に取り組める練習方法です。その美しさや奥深さを捉え、画面上に表現することは、アーティストとしての技術や感受性を高めるための鍵となります。
静物デッサンを学ぶ際の最初のステップは、描写したい物の選択です。簡単な形から始めて、徐々に複雑な形状や質感に挑戦することで、スキルを段階的に向上させることができます。
その後の全体的な輪郭の描写や明暗の追加、そして暫定的な完了から修整へというプロセスを通じて、作品に深みやリアリティを持たせることができます。
そして、デッサンをする際の素材選びも重要なポイントです。鉛筆・木炭・炭筆・インクなど、多様な素材を用いることで、異なる表現や質感を探求することもできますし、それぞれを組み合わせて制作することもできます。
また、それぞれの素材が持つ特性を最大限に活用することで、より魅力的な作品を生み出すことが可能です。実際の練習を通じて、これらの技術や知識を身につけることは、アーティストとしての道を歩む上で非常に価値のある経験となります。
最終的に、デッサンは単なる練習や技術の一つに留まらず、アーティストとしての視点や感性を研ぎ澄ます手段となります。真剣に取り組むことで、あなたの作品に深みや独自性を持たせることができるのです。
静物デッサンを通じて、アートの世界に没頭し、無限の表現の可能性を追求しましょう。そして、この記事が、その旅の第一歩として役立てることを願っています。
尚、あなたが展覧会や公募展へ出品を希望する際には、ただモチーフを上手に描けるだけでは入選できません。それは、あなたの制作する画面全体を使って、作品全体を魅力的な構成にする必要があるのです。その内容について興味のある人は、次の関連記事を参照してください。
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ではまた!あなたの未来を応援しています。
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