プロが教える鉛筆画のコツ:リアルな肖像画を描く方法とは?

人物画の描き方

 どうも。私は、プロ鉛筆画家の中山眞治です。

 さて、鉛筆だけで作り出されるリアルな肖像画は、観てくださる人を魅了します。しかし、その技術を習得することは簡単ではありません。

 この記事では、筆者が鉛筆画の基本から応用テクニックまでを、具体的なステップの シェーディング(陰影技法)、比例の取り方、ディテール(詳細)の表現方法など、初心者の人でも理解しやすいようにポイントを絞ってご紹介します。

 それでは、早速見ていきましょう!

鉛筆画の基本:材料と準備

筆者の描画ツール収納ケースです

 鉛筆画を始めるにあたって、適切な材料の選択と準備は非常に重要です。本章では、鉛筆画に最適な道具の選び方と、作業を始める前の準備手順を解説します。

必要な材料を揃えよう

 まずは基本的な材料を揃えましょう。鉛筆画には、硬度が異なる鉛筆が必要です。同じメーカーの2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの合計7本の鉛筆を、基本セットとして揃えると良いでしょう。硬度が異なることで、線の濃淡を自由に表現できます。

 また、消しゴムは細かい修整が可能な「練り消しゴム」を選び、線を消す際に紙が痛まないように注意が必要です。さらに、スケッチブックは鉛筆の種類によって紙質を選ぶことも重要です。 

 細かいディテールを描く場合は、滑らかな紙を選びますが、濃淡をつけたい場合は少し粗めの紙が適しています。これらの、鉛筆・スケッチブック・練り消しゴムについては、次の関連記事を参照してください。

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準備を整える

 材料が揃いましたら、実際に描く前に準備を整えましょう。まず、鉛筆を削ることから始めます。削り方にもコツがあり、芯が長めに露出するように削ると、線の幅を自由に調整しやすくなります。

 鉛筆削りには、電動のものや手動のものがありますが、筆者は鉛筆が長い時には上の画像の鉛筆削りを使っていますが、鉛筆削りで削れないほど短くなった場合には、「鉛筆ホルダー(上の画像)」に差し込んでナイフで削っています。

 また、制作を始める前に、手元に照明を設置して、描くモチーフが明るく照らされるようにすることも大切です。これにより、細かいディテール(詳細)が観やすくなり、より正確な描写が可能になります。

 これらの準備を整えることで、鉛筆画のクオリティが格段に向上し、よりリアルで細部まで繊細に表現された作品を描くことができるようになれます。

 初心者の人でも、これらの基本を押さえておくことで、鉛筆画の魅力を存分に引き出すことが可能になります。

肖像画の比例と構図の基礎

マリリン・モンローの画像です

 肖像画を描く際に最も重要な要素の一つが、比例と構図です。本章では、肖像画における比例の取り方と効果的な構図の基本について解説します。

肖像画における比例の理解

 肖像画で顔の比例を正確に捉えることは、作品のリアリズム(写実)を大きく左右します。一般的に、顔の長さはその顔の幅の約1.46倍とされています。また、顔の中心線を基準にして、目はその中心線からやや上の位置に描かれます。

 鼻の長さは目の下から顔の中心線までの距離と同じくらいが理想的です。さらに、耳の位置は目と鼻の間に揃えることが一般的です。これらの基本的な比例を理解し、守ることで、肖像画の基本的なリアリティが生まれます。

人の顔を描く手順

顔全体のバランス

 前髪の生え際から眉間まで、眉間から鼻下まで、鼻下から顎先までの長さがそれぞれ同じ比率の1:1:1で顔の横幅が目の横幅の5倍、顔の横幅と顔の縦の長さが1:1.46の3つの条件が顔全体のバランスの黄金比(※)と言われています。

※ 黄金比とは、古代ギリシアの数学者が最初に発案したといわれており、近代になって「黄金比」と名付けられ、今もなお使われ続けている比率のこと。 「人間が最も美しいと感じる比率」といわれています。 近似値では「1:1.618」、「5:8」となります。

輪郭線と補助線を入れる

 輪郭線と補助線を最初に描くことで、作品全体のバランスを取る最初のステップとなります。輪郭線は、卵形の楕円を描き、画面に縦の中心線を入れましょう。

鼻・口・目の位置を決める

・横の比率 1:1:1:1:1

=耳から目尻:目の大きさ:鼻:目の大きさ:目尻から耳

・縦の比率 1:1:1

=前髪の生え際から眉間まで、眉間から鼻下まで、鼻下から顎先まで

目を描く順序

第1回個展出品作品 人物Ⅵ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

目全体の形状→黒目→白目

 黒目を描く際は、黒目の中心から描いていきますが、色の濃いとこをから描き始めることで描きやすさが増します。

 尚、瞳に映っている光はよく観察して、その部分は最初からトーンを乗せないように注意しましょう。また、黒目部分は一様に真っ黒ではなく、色の変化がある事にも注意しましょう。上の画像を確認してください。

髪の毛を描く順序

髪の毛全体の輪郭を描く→髪の毛の流れを描く→影になっている部分の濃いところと、光が当たって反射しているところを意識して描く 

効果的な構図の選び方

 構図は、視覚的な魅力を高めるために非常に重要です。肖像画においては、「三分割法」を利用することも一つの方法です。この法則では、画面を縦横に三等分し、その交点や線上に主要な要素を配置します。

 例えば、被写体の目を横の上の第一線(上の線)に合わせることで、自然でバランスの取れた構図が生まれます。また、背景をあえてシンプルで濃いトーンを施すことで、被写体を際立たせる効果も期待できます。

 尚、背景に濃いトーンを配置した場合には、改めて人物にも濃いめのトーンを施すことによって、リアリティーが高まります。

 肖像画を描く際には、これらの比例と構図の基本を念頭に置きつつ、実際に多くの作品を参考にすることが大切です。

 具体的な作品を観察し、それぞれの画家がどのように比例と構図を扱っているかを学ぶことで、自身の作品に生かすこともできます。

 このような基本的な理解を深めることで、初心者でもプロのような肖像画を目指すことが可能になります。

効果的なシェーディング(陰影技法)

          マリリン・モンローの画像です

 シェーディングは、鉛筆画において立体感を出し、作品に深みを与える重要な技術です。ここでは、効果的なシェーディングを紹介し、よりリアリスティック(写実的)な肖像画を描くためのポイントを解説します。

シェーディングの基本:光と影の理解

 シェーディングの基本は、光と影の関係を理解することから始まります。描きたい人物がどのように光を受けているかを観察し、その光の方向と強さに基づいて影を配置します。

 光が強く当たっている部分は明るく、光が届かない部分は暗くすることで、立体的な形の輪郭と深さを際立てられます。

 特に、顔のシェーディングでは、鼻梁、頬骨、あごのラインに注意を払い、自然な陰影を作り出すことが重要です。その場合には、2Hなどの鉛筆で、優しくなでるように、まるで「化粧」を施すような優しいタッチで影を入れていきましょう。

グラデーション(階調)の技術

 影をつける際のグラデーションは、柔らかく自然な遷移を目指すべきです。硬度の異なる鉛筆を使い分けることで、濃い影から薄い影へとスムーズに変わるグラデーションを表現できます。

 例えば、深い影を描くには3Bや4Bの柔らかい鉛筆を使用し、薄い影や光が当たる部分には2HやHの硬い鉛筆を使います。

 また、指や擦筆(ぼかし効果を得るための紙や布で作られた描画用の道具)を使用して、鉛筆の線をなじませ、より滑らかな影の遷移を作り出すことも可能です。尚、ティッシュペーパーでも代用できます。

影の強調とディテール(詳細)の追加

 影を強調することで、肖像画に更なるリアリズム(写実)とドラマをもたらすことができます。顔の特定の部分、例えば目の下や鼻の下にしっかりと影を入れることで、表情に深みと感情を表現できます。

 さらに、髪の毛や服のしわに細かい影を加えることで、テクスチャー(感触)と動きが生まれ、視覚的な興味を引けます。

 これらのシェーディングを駆使することで、あなたの鉛筆画は一段とプロフェッショナルな仕上がりになります。練習を重ねることで、これらの技術も自然と身に付き、より表現豊かな作品を創り出すことができるでしょう。

リアルな表情を描くコツ

          マリリン・モンローの画像です

 肖像画の魅力の一つは、描かれた人物の表情にリアリティ(現実性)と感情を込めることができる点にあります。本章では、リアルな表情を描くためのコツを紹介し、作品に命を吹き込む技術を解説します。

表情の微細な変化を捉える

 表情のリアリズムを高めるためには、顔の微細な変化を正確に捉えることが重要です。特に、目、眉、口元の動きは感情を表現する上でキーポイントとなります。

 例えば、微笑みを描く場合、目尻のわずかな上昇や、頬の軽い膨らみに注意を払うことで、自然な笑顔が表現できます。

 また、眉の形状や位置の変化も感情の強さを伝えるために重要です。怒りを表すときは眉を下げ、困惑を表すときは眉を上げるなど、細かい動きに注目しましょう。

光と影を使った表情の強調

 リアルな表情を描く際には、光と影の使い方が非常に効果的です。顔の立体感を出すために、光が当たる部分と影ができる部分をはっきりさせます。

 このテクニックにより、感情の表現がぐっと強調され、人物の内面がより深く伝わるようになります。例えば、悲しみを表現する場合、目の下に影を濃くすることで、目元のくぼみを強調し、感情の重さを表現できます。

 尚、人物の顔にトーンを乗せる際には、既述していますように、薄い鉛筆で「優しく繰り返しトーンを乗せていく」ことを記憶しておきましょう。

 そして、同じ方向からの線でトーンが乗りにくい場合には、縦横斜めのクロスハッチングによるトーンの乗せ方も考慮に入れましょう。

 また、顔などの曲面にできたトーンを入れる際には、曲面に沿った描線で影を入れることも覚えておきましょう。球体などへの影の入れ方と同じです。下の画像を参照してください。

実際の観察と練習

 最も重要なのは、実際に人の表情を観察し、それを練習に活かすことです。日常生活で出逢う人々の表情を注意深く観察し、どのような表情がどのような感情を伝えるのかを理解しましょう。

 また、写真やビデオを参考にして、さまざまな角度や光の条件下での表情を研究することも有効です。実際に多くの表情を描くことで、手と目の協調性が向上し、自然でリアルな表情の描写が可能になります。

 これらのコツをマスターすることで、あなたの肖像画はより感情豊かで、観てくださる人に強い印象を与えられる作品へと進化します。練習を重ね、常に観察を怠らないことが、リアルな表情を上手に描く鍵です。

 ただし、電車やバスなどで乗り合わせた人々の顔を「じっと」見ていると、トラブルの原因にもなりますので注意しましょう。^^

細部のディテールをマスターする

          マリリン・モンローの画像です

 リアルな鉛筆画を描くためには、細部のディテール(詳細)への注意が不可欠です。本章では、細かなディテールを効果的に描き出す方法と、それを練習するためのテクニックを紹介します。

ディテールの観察から始めよう

 細部に富んだリアルな作品を描くための最初のステップは、モチーフのディテールを細かく観察することです。肖像画であれば、皮膚の質感やしわの細かな線、髪の一本一本に至るまで注意深く観察します。

 自然物を描く場合などでも、葉脈や花びらのエッジの特徴を詳細に捉えることが重要であるように、この観察を通じて、モチーフの本質を理解し、それをスケッチブックや紙上に再現することが可能になります。

ディテールを強調する描画技法

 細部のディテールを描く際には、正確な描線とシェーディングが求められます。線の太さや強さを変えることで、ディテールの深さや質感を表現できます。

 例えば、皮膚の質感を表現するためには、細かい点描法や薄い線を用いることが有効です。また、髪の毛を描く際には、髪の流れと反射を示すハイライトを繊細に表現することで、よりリアルな質感を再現できます。

練習を通じてスキルを磨く

 ディテールをマスターするには、継続的な練習が不可欠です。具体的な練習方法としては、小さな範囲を選んで集中的に描く「クローズアップ練習」がおすすめです。

 例えば、目の周りの細かいしわや、口元の表情筋を詳細に描いてみましょう。これにより、対象の一部を隅々まで理解することができて、全体の制作に活かすことも可能になります。

 ディテールの正確な描写は、鉛筆画のリアリズム(写実)を大きく左右します。これらのテクニックと練習方法を活用することで、どんな細かなディテールも見逃さず、高い技術力で表現することが可能になるでしょう。

 あなたの作品に深みとリアリティ(現実性)をもたらすために、ぜひこれらの方法を試してみてください。

実践例:有名な肖像画を再現してみよう

 鉛筆で、肖像画の制作を上達する一つの方法は、過去の巨匠たちの作品を再現してみることです。本章では、有名な肖像画を選び、それを再現する過程を解説して、学ぶべきポイントを紹介します。

選ぶべき有名な肖像画

 再現を始める前に、まずは対象となる有名な肖像画を選ぶことが重要です。初心者には、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」やヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」など、比較的シンプルな構成の作品がおすすめです。

 これらの作品は、表情の微妙なニュアンスや光の使い方が学べるため、技術向上に役立ちます。

再現の手順

 再現を始めるにあたって、最初に行うべきは作品の観察です。元の肖像画の比例、構図、光の当たり方を詳細に分析します。次に、基本的なアウトラインを軽くスケッチし、徐々に詳細を加えていきます。

 シェーディング(陰影技法)には特に注意を払い、元の作品に忠実に光と影を再現することが求められます。この過程で、細部のディテールにも注意を向け、特に目、口元、髪の質感など、表情を形作る要素は丁寧に描きましょう。

学べるテクニックと注意点

 有名な肖像画を再現する過程で学べるのは、ただ技術だけではありません。それぞれの画家が、どのように感情や人物の内面を表現しているかを理解することも、この練習の大きな目的になります。

 注意点としては、初めての再現では完璧を求めず、一つ一つのステップで学びを深めることを心掛けることが大切です。また、自身のスタイルを見失わず、元の作品から新たなインスピレーションを得ることも忘れないでください。

 このような実践を通じて、鉛筆画の技術だけでなく、芸術作品への理解も深まります。有名な肖像画を自分の手で再現することで、過去の巨匠たちの技と直接対話する貴重な経験を得ることができるでしょう。

鉛筆画の常識を覆す創造的なアプローチ

           マリリン・モンローの画像です

 鉛筆画は伝統的なアートフォーム(芸術表現の一形態)ですが、創造的なアプローチを取り入れることで、新たな表現の幅を広げることも可能になります。本章では、従来の鉛筆画の常識に挑戦し、創造性を刺激するアプローチを探求します。

伝統的技法との融合

 鉛筆画においては、伝統的な技法を基礎としながらも、異なるアートスタイルや他のメディアとの融合を試みることができます。

 例えば、木炭やペンと組み合わせることで、鉛筆画により濃いトーンや新しいテクスチャ(感触)を加えることも可能です。また、デジタル技術を利用して、手描きの鉛筆画に動的な要素を組み込む試みもあります。

 これらの方法は、鉛筆画の新たな可能性を見いだせると同時に、視覚的に魅力的な作品を生み出す手助けにもなります。

現代的な主題とテーマ

 鉛筆画の主題を現代的なものにすることも、創造的なアプローチの一つです。

 社会的、政治的なテーマや、現代の大衆向けの文化全般を取り入れることで、より多くの観客と共鳴し、メッセージ性の強いアートワーク(手工芸品)を創造することもできます。

 例えば、環境問題や平等の概念を描くことで、アートを通じた議論を促すことが可能になります。これらのテーマは、観てくださる人に深い印象を与え、鉛筆画に新たな価値をもたらします。

まとめ

第1回個展出品作品 人物Ⅳ 1997 F10 鉛筆画 中山眞治

 鉛筆画は、そのシンプルな道具とテクニックによって、深い表現力と細やかなディテールを可能にします。この記事における内容を、以下に箇条書きでまとめました。

  • 材料と準備の重要性:適切な鉛筆の選択(硬度の異なる鉛筆を使用)・質の良いスケッチブックや練り消しゴムと鉛筆削りの準備
  • 肖像画の比例と構図:正確な比例の把握・効果的な構図の適用と三分割法を利用したバランスの取れた配置等
  • シェーディング技術の習得:光と影の適切な表現で立体感を出す・グラデーションと細かな影の調整
  • リアルな表情の描写:表情の微妙な変化を捉える技術・感情を豊かに表現するための光と影の活用
  • 細部のディテールの表現:細かいテクスチャーとディテールへの注目・繊細な描写でリアリズムを高める
  • 創造的なアプローチ:非伝統的な材料や異なるアートスタイルとの融合・現代的なテーマの取り入れと表現
  • 有名な肖像画の再現練習:過去の巨匠たちの作品の分析と再現を通じた学習・技術と感性の向上

 尚、あなたが鉛筆画を描いていくうえで一番最初に重要なことは、描くことに慣れるまでは、構成及び構図や構想を練ることなどと、色々考えないでください。挫折につながってしまうことがあるからです。

 やがて描くことに慣れて、「描く以上は各展覧会や公募展へも出品したい」と考えるようになったとしましたら、構図と構想を練ることは必須です。

 つまり、観てくださる人を魅了し、審査員をうならせるような魅力的な作品にするためには、これらの要素が必要であるということです。興味のある人は、次の2つの関連記事も参照してください。

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  ではまた!あなたの未来を応援しています。

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